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木村友祐さん「幼な子の聖戦」インタビュー 若者つぶす日本社会、書かねば

木村友祐さん

 既得権益を持つ者が意欲ある若者をつぶしていく。地方の村長選挙を通して「社会の縮図」を滑稽に描いた小説が、1月の芥川賞の候補になった。木村友祐(ゆうすけ)さんの『幼(おさ)な子の聖戦』(集英社)。作家が見つめるのは社会からはじき出された人々だ。
 木村さんは1970年、青森県八戸市生まれ。2009年にすばる文学賞を受けてデビュー。「幼な子の聖戦」が初めての候補入りだった。選考会では「エンターテインメント的な面白さ」を評価する委員がいたが、「エンタメに走りすぎ」という批判もあった。受賞は逃したが、面白いことは間違いない。
 青森の知人から、ある村長選挙の実情を聞いたことがきっかけでこの作品を書き始めたという。40代の村議の男を主人公に、青森の小村で起きた村長選挙を描く。主人公は幼なじみを擁立する動きに関わり、新しい政治の動きに高揚するが、ある日を境に立場が一変。豊かな南部弁で語られる笑いに満ちたドタバタ劇は、狂気を帯びてゆく。
 描かれる出来事はほぼ現実そのままという。「既得権益を持つおやじたちがおいしい汁をちょっと吸おうとして、やる気のある若者をつぶしていく。日本社会の縮図だ。これを書かなければ、と」。ラストに向けて絶望感があふれ出す。「東日本大震災後の国の状況への絶望が深く、主人公が虚無を抱えた人間になりました」
 社会の困難を敏感にとらえ、「今まで抱え込んできたものが震災でできた亀裂から噴き出してきたよう。小説を書いても世の中は変わらない」と悲観する。それでも東京五輪前に小説の形でぶつけたいと思った。「五輪で街はきれいになっても、人々の心は寒々としています」
 作品に登場するのは決まって、社会からはじき出された人や中央から忘れ去られた場所だ。被災した自身の故郷を舞台とした「イサの氾濫(はんらん)」(11年)や、原発事故を主題とした「聖地Cs」(14年)など、社会問題が強く投影されていた。
 「格差は埋まらない。政治家は大企業を優遇するだけ。人に聞かれないところで悲鳴をあげている人に寄り添うのが文学だと思う。排除の機運が強まっているときに、阻害されている人たちのことを書かなくてどうする、と」
 小さな場所、はずれた地点を根拠として書いた作品を選ぶ「鉄犬ヘテロトピア文学賞」の選考委員を務める。6年前に作家仲間と始めた小さな賞は、大きな文学賞へのアンチテーゼだが、昨年から芥川賞をめぐる喧噪(けんそう)に巻き込まれた。
 12年に発表した「天空の絵描きたち」が前回の芥川賞で、ある候補作の参考文献に挙げられたことから、選評で盛んに言及される事態に。「候補にもなっていないのに話題になる」と戸惑った。「幼な子の聖戦」の単行本化にあたり、同時収録した。文学賞ゆかりの1冊となった。(中村真理子)=朝日新聞2020年2月5日掲載