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「どこからお話ししましょうか」書評 落語を「了見でおぼえる」とは

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2020年02月22日
どこからお話ししましょうか 柳家小三治自伝 著者:柳家小三治 出版社:岩波書店 ジャンル:芸術・アート

ISBN: 9784000613798
発売⽇: 2019/12/19
サイズ: 20cm/209p

人情の機微を描き出す円熟の古典落語、即興の妙が光るマクラ…。噺家・柳家小三治が、生い立ち、初恋、入門、修業時代、真打昇進、落語論から、バイク、クラシック音楽、俳句、忘れじ…

どこからお話ししましょうか 柳家小三治自伝 [著]柳家小三治

 同年代の人物の自伝を読むと、時代の共有感が味わえる。戦時下、5歳の時、遠目に仙台空襲を見る。「きれいだなあ」と言ってひっぱたかれる。私もB29が編隊を組んで飛んでいくのを見て、同じ言を口にして殴られた。「私も戦争を知っている一人」という語に頷(うなず)く。
 落語家としての歩みの中に、新時代の空気、大衆意識の変化、その時々におぼえた演目、芸の本質などが独特の口調で語られる。落語をせりふや言葉でおぼえるのではなく、「了見でおぼえていく」という。了見? それを読者が本書から読み解く構成になっている。
 師匠の小さんには、噺の最初から客に受けようとする芸が叱られる。二ツ目時代、17、18歳の女の子から、ちゃんと落語をやってくださいと言われる。テレビで少々浮かれていた時代だ。世間にはきちんと見ている人がいる。お天道さまは裏切っちゃあいけねえと、著者は呟く。
 80年の人生で得た至言にふれて、心が和む。