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「看板建築図鑑」 市井の人々によるデザインが面白い

 先日、関東地方でも春一番が吹いて、春の気配を感じる今日この頃。暖かくなってきたら、「看板建築図鑑」を参考に“建築さんぽ”はいかがでしょうか?

 本書は、一級建築士である宮下潤也さんが国内の看板建築およそ60件を立面図として描き起こしたイラスト図鑑。看板建築とは、木造建築の正面部分だけを銅板やモルタルなどの不燃材料で覆って装飾を施した、まるで「看板」を付けたかのような建築のことを指します。関東大震災後に関東地方を中心に数多く建てられ、全国に広がっていきました。

 建物の正面部分、ファサードの装飾デザインのほとんどは、いわゆる建築家がつくったのではなく、大工や家主らが西洋建築を真似てつくった「大衆のデザイン」だと、著者の宮下さんは言います。西洋建築にはない図像のレリーフが使われていたり、古典建築とは異なる独自の様式が用いられていたり。そして、家主らの好みが表れているのも面白いところです。

 たとえば、秋田にある銭湯「旧塩乃湯」の建物。ステンドグラスなど洋風の雰囲気が漂いつつも、家主が豊臣秀吉好きだったそうで、店名部分には秀吉の馬印であるひょうたんのモチーフが採用されています。

 看板建築は、今でも神田などの東京の下町や埼玉県川越市、茨城県石岡市などに現存していますが、残念ながらその多くは再開発などで解体され、消えつつあります。数少なくなった看板建築を探すのは、宝探しのようなもの。うれしいことに本書には著者直伝の「看板建築の探し方」も収載されているので、それを手がかりに近所や旅先で看板建築との一期一会をぜひ楽しんでみてください。