街中で生理用ナプキンを配るプロジェクト
三浦 これは集英社さんのプロジェクトです。「SPUR(シュプール)」というモード雑誌が30周年のタイミングで、新しいプロジェクトをやりたいとおっしゃっていただいて。彼ら彼女らの課題は一体何かというと「美しさの多様性」を自分たちは今まで奪ってしまったんじゃないかと。広瀬すずさんとか安室奈美恵さんとか、いわゆる「美しい」モデルさんばかりを追い求めてきた。でも「美しい」ってもっと多様で、色んな人がいて全ての人々が自分なりの美しさを持っているはずだと。そういうことを表現したいとおっしゃっていたただいて、30周年のタイミングでこういうプロジェクトをやらせていただきました。
渋谷にめちゃくちゃでかい広告を貼らせていただいて、そこにオリジナルの生理用のナプキンを貼って、皆さんがお持ち帰りできるように配ったと。クリエイティブはCHAI(チャイ)という、いわゆる西洋至上主義的な美しさとはちょっと違う可愛らしさ、生き生きした美しさを持っているタレントさんの写真を貼っています。これは見てもらえば分かるんですけど、本来広告で使う写真じゃないんですよ。顔が切れているし、全員カメラ見てないし。だけれども、こういう視線を外す自由さやはみ出すくらいの元気とか。あと全員手を突き上げてるんですけど、これはヒラリーが選挙戦で「社会にはまだまだガラスの天井がある」「女性はまだ生きづらい社会だよ」ということを言いました。その「ガラスの天井」を突き破ることをイメージしています。
コピーは「JUST BE YOURSELF. 時代はいつもあなたから変わる。」「世界の価値観が鮮やかに変わる時代です。これまでのルールだって、あなたの常識だって、きっと自由に変えていけるはず。今、必要なのは私たちのからだについてもっと知ること、もっと知ってもらうこと。これまでも、これからもあなたのそばに。30年目のSPURです。」いわゆる美しさや女性の生き方といったものの常識が凄く画一化されて押し付けられている社会に対して、そうじゃない考え方がもう始まっているよ、革命はとっくに起きてるよ、自分たちから始まってるんだよ、ということをタブーだと思われがちな生理用品を街中で貼って配るというプロジェクトを通じて表現した広告です。
秋吉 これは「事件」と「実験」と「意見」だということですよね。
三浦 まさに全部入っていますね。
秋吉 これも凄くツイッターでリツイートされましたね。
三浦 おかげさまでものすごく話題になって。多くの方に喜んでいただいた。「こういう広告を待っていた」とか「こういう時代になったことが嬉しい」と、ジェンダーについて意識を持たれている方々などから共感の声をいただいたプロジェクトです。
「コピー」とは何か?
秋吉 では、次にもうひとつのテーマ「言語化力」について話していただければと思います。1月22日に著書『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』を出されました。三浦さんは元々博報堂でマーケテイング、PR、クリエイティブとか色々経験されているじゃないですか。その中で「言語化力」というテーマを選ばれたのはなぜでしょう?
三浦 ありがとうございます。マーケティングとかいわゆるビジネス書って世の中にたくさんある。今回、本屋まわりを5、6店舗くらいしたんですけど、行くたびに欲しい本がたくさんあって「本って本当にいいなあ」と思う。僕は大学時代は小説家になりたかったので、小説も書いたことあるんですけど、世の中にはこんなに読まなきゃいけない本や見なきゃいけない映画がたくさんあるのに、僕ごときがなぜ本を書かないといけないんだろうと思って、恥ずかしくて情けない思いをしてしばらく遠ざかってたんですね。今回、新しい自分の会社をつくって、経営者として色々お仕事させていただいていく中で、やっぱり多くの方々が「自分の思考を言葉にする」とか「自分の考え方を言葉にする」ことが求められている時代だなと改めて思って。その技術を何かしらまとめた本って実は意外にないんですよ。
ソシュールやウィトゲンシュタインの言語学みたいなもの。いわゆる西洋哲学としての言語学ですね。あとはいわゆる日本の『伝え方が9割』『「言葉にできる」は武器になる。』的なある種実用的な言葉の本。この哲学的な言語の本と実用的な言葉の本の間がガラッと抜けているんですよ。ここをどこかでつなぐようなことができないかなと考えていて、もちろん実用寄りなんですけど、今回、僕がチャレンジする価値があるんじゃないかなと思って書いてみました。
秋吉 三浦さんの本を読ませていただいて、感動した部分に付箋を貼っていまして。(大量の付箋を見せながら)
三浦 もう嬉しいですよ。これ来る前に貼ったんじゃないよね?
秋吉 違います(笑)。
三浦 美術のスタッフがやったとかじゃないですよね(笑)。
秋吉 ちゃんと本の中にマーカーも引いています(笑)。この中で、三浦さんにお話ししていただければと思うキーワードをいくつか抜粋しています。まず「コピー」とは? どんな役割があって、どういう風に考えてコピーを書いていくといいでしょうか?
三浦 キャッチコピーとは何かという質問ですよね。コピーというか、言葉の本質的な機能としては、やっぱり現実を変えるきっかけになってなきゃいけないと思うんですよね。そういう意味でいうと、表現すること自体は何の意味もないわけですよ。例えば、この(ペットボトルの)水があった時に「透明な気持ちになれる水」と言ったところで、何の意味もないですね。別に飲みたいとも思わないし、何かが変わるわけでもないですし。だけどこれが「アフリカの少年が飲みたかったけど、どうしても飲めなかった水」と言われた瞬間「なんかこれ関係あるな」「飲んであげたほうがいいのかな」「そんな貴重なものなのか」と思うようになる。つまり美しい表現や綺麗な言葉のまとめ方には何の意味もなくて、情報によってその人間が動く、人間の思考が変わるきっかけになっているかという一点が、広告コピーとして機能しているかどうかの評価基準かなと思っています。
だから、動かすために美しい言葉が必要ということはあるんですよ。でも動かすことを想定されていない、単なる美しい言葉には何の意味もない。それは詩とか文学としての機能はあると思うんですけど。コピーとはあくまでマーケティングの中で機能する一部品なので、動くこと、変わることのきっかけになるものでないと評価のしようがないと思っています。
自然と本が売れる方法とは?
秋吉 「PR思考」と「言語化」。その二つを組み合わせて、本を売ったり届けたりするためにこんなことをやったらいいということはありますか?
三浦 今回、僕改めて思ったんですけど、本屋に行かないとダメだなと思いましたね。これは凄くいい気づきがあって、本というものの魅力を伝えるのは、まあまあ難しいというか、もう皆分かっているので。しかも本ってあまりにも内容がバラバラとしているので、本業界を盛り上げるってそんな簡単じゃない。本に視点を当てると難しいと思ったんですよ。
そこで著者に視点を当てようとしたのが幻冬舎の箕輪(厚介)ですよね。彼はAKB方式を本に使って「100冊売ったら握手できますよ」「100冊買ってくれたら講演会やりますよ」といったプロモーションの仕組みを発明した。これは本当に素晴らしい。本ではなく著者に視点を当てることで売っているわけです。このやり方は素晴らしいが、僕はやらないなと思ったんですよ。理由は僕よりも本のほうに価値があると思ってほしかったから。これが10年、20年後も誰かの記憶に残って誰か手に取った人の人生が良くなるようなものにしたいと、編集者と一緒に考えてつくってきているので。それをやっちゃうと例え本がいいものであったとしても「著者のほうが大事なんです」と思わせてしまう。今日僕が1時間話したよりも、遥かに意味のあることが本には書いてあるので。そこは自信を持って、読んでもらえると思っているんですよ。
じゃ何かというと、本屋に足を運ぶ理由をつくれば自然と本は売れるなと思いました。誰もが言うことなんですけど、アマゾンは知ってる本しか買えない。本屋には知らない本を買いたくなるような仕組みがある。ここにやっぱりヒントがある。とにかく待ち合わせ場所を本屋にしようと考えてみる。例えば、渋谷のハチ公前など駅前で待ち合わせするけれども、待ち合わせ場所がない場所だったら本屋で待ち合わせしてみようと考える。あるいは、本屋ってあんまり喋ったらいけない雰囲気があるじゃないですか。それをめちゃめちゃ喋っていい空間だと考えてみる。本をベースに何か話し合ってみるとか。とにかく本屋に人が来る理由を全ての本屋が考える。
それこそ(好書好日サロンイベントに登壇した)前回の嶋浩一郎さんは「B&B」という、ビールが飲めて毎回講演会をやっている本屋をやってますけど、そういうものもそうですし、それぞれの本屋が自分の場所に人が来る理由をどう見つけられるかだと思うんですよ。例えば、著者が来たらツイッターで応援してもらうでもいいですし、本屋に来るだけで何かポイントが貯まるデジタルのサービスをつくってもいいかもしれないし。あるいは「待ち合わせ場所に使ってください」と大声で言ってみるのもいいし、カフェと併設するでもいいし。とにかく本屋に来る人口が増えれば、自然と本は売れるんだろうなという感じが、今回、著者として色んな本屋に行ってみて思いましたね。だから本の売り上げの数字を見るよりも、本屋に足を運ぶ人の数字を見て、マーケティングするのがいいんじゃないかと思いました。