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映画「小説の神様」に主演の佐藤大樹さん 「キラキラしているだけじゃない青春を伝えたい」

文:根津香菜子、写真:篠塚ようこ

僕は「神様」を信じている

――まずは佐藤さんが原作を読んだ感想を教えてください。

 小説家の方が、普段どんな苦労や葛藤があるかということが、世に知られる機会ってあまりないじゃないですか。一人で黙々とキーボードをたたいてる時の孤独感や、作品が描けない時の恐怖みたいなものを相沢先生自ら描かれて、それがリアルに伝わってくるので、読んでいてすごくおもしろかったです。僕は元々、ドラマでもドキュメンタリー番組でも「何かを作っている人の裏側」みたいな作品を見るのが好きだったんです。なので、原作も気づいたらあっという間に読み終わっていました。きっと相沢先生は、ご自身の過去のことを「一也」という人物に投影していたんだろうなと感じました。

HM:藤原早代、ST:jumbo(speedwheels)

――最初に『小説の神様』というタイトルを聞いた時、どう思われましたか?

 最初は「何?」ってシンプルに思いました。原作でも脚本でもかなり早い段階でこのワードが出てきたので、結果としてずっと気になる言葉でした。撮影中に久保(茂昭)監督が「今のシーンで二人の神様って何だと思う?」とすごく難しい質問をしてくるので、いつもそのことを考えていました。僕は「神様」を信じている方なので「神様っているよね」と思うし、本を読んでいても「小説には人の心を動かす力がある」という詩凪のセリフは、すっと心に入ってきました。

――同じ高校生作家の詩凪と共作していく中で、物語を描くことの楽しさや面白さに触れ、一也の眼差しがパッと輝く瞬間が印象的でした。

 一也を演じる上で特に意識したのは、目のお芝居ですね。例えば、セリフがない時の戸惑いや動揺、そういった細かい感情の変化をどう表現しようかということは、すごく研究しました。一也みたいな性格の人って、自分の主張は強いけど、だれかにちょっと強く言われたらすぐに「しゅん」となるというか。痛いところを突かれたら目に出る、という個人的な見解があったので、そこを意識しました。この作品では、演じていて気がついたらそういう表情をしていた、ということが多かったんです。

© 2020映画「小説の神様」製作委員会

 映画の前半で、詩凪のプロットを聞きながら一也がどんどん笑顔になっていったところも、完成した作品を観て「あ、こんな表情していたんだ」って自分でも気づかされました。あらかじめ考えて用意していた表情というよりは、一也を演じていて自然とそうなっていたという方が多くて、自分でもすごく不思議な感覚でした。

――映画では、一也があることで挫折を味わい、雨に濡れた服を床にたたきつけたり、何度も叫んだり――といった、感情を激しく出すシーンがありましたね。その動きは佐藤さんご自身から出てきたものと伺いましたが、どんな思いで出てきたアクションだったのでしょうか。

 現場に行くまでは、正直自分でもどんな行動をするんだろうと思っていたんです。作品全体を通して、あの瞬間の一也が一番みじめだと思ったので「人生のどん底にいる時に、一也は何をするんだろう?」と考えたら、みじめな気持ちのあまり、服を脱ぎたくても脱げないことにイライラして、もう何をしてもイライラするのかなって。そんな感情の吐き出し方が、声を荒げたり、本を破いたりという行動になったんだと思います。それに、今までに聞いたことのないボリュームで叫ぶ一也の姿で、観ている人の心をもっと引き寄せたいなと思って演じていました。

「青春」にはいろんな当てはめ方がある

――本作は「共感度No.1ファンタスティック青春ストーリー」とうたっているように、一也の小説の大ファンで彼に憧れて、自分も小説を書いてみたいと思う文芸部の後輩・成瀬秋乃や、一也の友人で、小説は大好きだけど、自分では面白い作品が描けないことにジレンマを抱える部長・九ノ里正樹それぞれのストーリーも描かれています。「何かを創りたい」と思う若い人たちの熱い気持ちが溢れていて、私も「文章を書いて人に伝える仕事に就きたい」と決めた時のことを思い出しました。

 僕は「青春」っていう言葉には、いろんな当てはめ方があると思っているんです。青春や高校時代って、キラキラしたことばかりじゃないですよね。

 高校生で職を持つという点では、僕も一也と同じ。デビューした後、すぐにうまくいくことばかりではなかったけど、他の人と比べたら、とんとん拍子できている方だと思います。なので、嫉妬されるようなところもあったと思うけど、もちろん挫折だってありました。「この作品で描かれていることは、小説家だけじゃなく、どんな職業でも置き換えられることですよね」と久保監督とも話していたのですが、きっと多くの大人には、若い頃に一也や詩凪と同じような苦労や挫折を味わったことがあって、人には言えないような悩みもあったのかなと思うんです。映画を観た後に「青春ってこういう言い方もあるよね」と思えるような作品になったと思っていますし、僕自身も新しいエネルギーをもらえた映画になりました。

――小説家という職業柄、一也と詩凪の本棚にはたくさんの蔵書がありましたが、佐藤さんの本棚にはどんな作品がそろっているのでしょうか?

 僕の本棚には、学生時代にハマった心理学の本や自己啓発本が数冊あるのと、今まで自分が出演した映画やドラマの原作マンガや小説が並んでいる段、それから書店に行って思わずジャケ買いした本が並んでいる段があります。最近ジャケ買いしたのは『石黒くんに春は来ない』(武田綾乃作、幻冬舎)という本です。SNSが発達した現代に起こりうる学園ミステリーなんですけど、スクールカーストが成立してしまっている学園内で起きる事件の犯人探しや、人間の妬みや恨みなどがテンポよく描かれていて「いい作品に出会えたな」と思いました。

――今まで読んだ中で、印象に残ってる本はありますか?

 小学生の頃だと思うんですけど、クラスのみんなで5分間くらい本を読む「読書の時間」っていうのがあったんです。何を読もうかと本屋に探しに行った時に買ったのが『夢をかなえるゾウ』(水野敬也作、飛鳥新社)でした。「ガネーシャ」というインドの神様が突然現れて、主人公のサラリーマンに毎日一個ずつ課題を与えていくんです。「靴を磨く」とか「全身鏡で見る」とか、日常に埋もれているようなことなんですけど、それを毎日続けることでいつの間にか人生が変わっていたというストーリーで、いつも読んでいました。

 しかも僕、主人公に出されたお題を同じように自分でも実行していたんです。でも、主人公ほどうまくはいかないし、自分とは年齢差があったので途中で止めてしまいましたが、ちょうど本を買った後に実写化されたのも嬉しくて、一番印象に残っていますね。ガネーシャが次にどんなお題を出すのか、本を読んでいる間ずっと楽しみでした。

――では最後に、本作のセリフを拝借してお聞きします。「小説は、好きですか?」

 好きです。今回の役をいただいたことをきっかけに「もっと小説を読もう」と思って集めるようになりましたね。これからは、サスペンスや推理小説をもっと読んでみたいなと思っています。

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