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「マスコミ・セクハラ白書」書評 もう黙らない 体験を自ら告発

評者: 武田砂鉄 / 朝⽇新聞掲載:2020年04月18日
マスコミ・セクハラ白書 著者:WiMN 出版社:文藝春秋 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784163911526
発売⽇: 2020/02/13
サイズ: 19cm/342p

マスコミ・セクハラ白書 [編著]WiMN(メディアで働く女性ネットワーク)

 2018年、当時の財務事務次官が「胸触っていい?」などとテレビ朝日の女性記者にせまったセクシュアルハラスメント事件をきっかけに、メディアで働く女性たちによって発足した組織、WiMN。「被害者が黙らされてきた社会を作ってきたのも、それを変えるのもメディアの責任である」とし、男性社会の中で泣き寝入りし、黙って耐え、潰されてきた経験を自ら語り、耳を傾けたのが本書だ。
 記者クラブという名の「ホモソーシャル(おっさんクラブ)」のノリに苦しみ、「女性らしいから」という理由で「ですます調」で書くように言われた記者は、毎朝のように「子どもはまだか、作り方は知ってるのか」とからかわれた。
 上司が、ある党幹部を「あの人は女好きだけど、我慢して頑張って」と言う。案の定、記者に「キスしたい」と聞いてきた。張り込み中、他社の記者にスカートの中を盗撮され、フィルムを出すように要求するも、にやにやしながら「このフィルム出しちゃうと、写真撮影できなくなるから困るんだよね」と断られた記者もいる。
 愕然(がくぜん)とする。そして、怒りが湧く。日本では、政界も財界も指導的地位に男性ばかりがいる。同時に、伝えるメディアにも男性ばかりがいる。「私たち」と報じられる多くが、男性目線だ。ある記者は「女性の目線で書いて」と言われ、「新聞記事は長い間、偏った属性から、男の目線で書かれていたということに気づいた」という。
 事務次官のセクハラ事件では、その被害を差し置いて、取材テープを週刊誌に渡すのは倫理違反ではないか、といった、女性の責任を問う声がメディアから出ていた。なにかあれば、女性のせいにして片付けようとする。たいしたことじゃないだろ、そういうもんだから、という慣習が、女性を責め立てる風土を生み、人間を潰してきた。この個々人の告発は、異様な慣習を覆す一歩になる。
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 うぃめん 2018年春に発足。100人超の会員(19年末)は、新聞・放送・出版・ネットメディアなどで活動する。