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「小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙」 『ざんねんないきもの事典』が連続1位に!今泉忠明先生・担当編集者の山下利奈さんインタビュー 

文:加賀直樹、写真:斉藤順子

頑張らなくたって良いんだよ!楽しく、楽しく!

―― 『ざんねんないきもの事典』が、「こどもの本総選挙」で連続1位に輝きました。おめでとうございます。ぜひご感想をお聞かせください。

今泉 まずは全国のこどもたちにお礼を言いたいですね。2016年の刊行ですから、まさか、また1位に選ばれるとは夢にも思っていませんでした。太りすぎて飛べなくなってしまった「カカポ」という鳥や、目玉が大きすぎて動かせない「メガネザル」など、ここに登場するいきものたちは、確かに「ざんねん」かもしれません。けれども「それでも、良いかもね?」という愛らしい動物ばかりが紹介されているんです。特に進化しなくても大丈夫。そんな点を、面白がって読んでくれたのではと推察しています。

――編集ご担当の山下さんは。

山下 私も本当に「ありがとうございます」という気持ちが一番に来ます。発刊してから4年ちかく経つんですよね。まさかこのタイミングでまた1位に選んで頂けるとは夢にも思っていなくて。二連覇できるとは。びっくりですね。

監修者の今泉忠明さん

――シリーズは第4弾まで続いており、5冊目も近日発売予定です。このように長い間、こどもたちに支持されているのは、どうしてだと思われますか。

今泉 おそらく、家庭内で「頑張りなさい!」と言われるけれど、それならば、どういうふうにすれば良いのか分からないお子さんが多いのではないでしょうか。「頑張れ!」という言葉が嫌いだと言う人も多分多いはずだと思うんですね。僕の4年生の孫の友達なんかもそうです。親に言われ続け、イヤになっちゃったんだろうな……。僕がこの本を通じて伝えていることは、「別に、頑張らなくたって良いんだよ!」ということです。楽しく、楽しく! なかなか、そんなことを言う大人はいないので、支持して下さるお子さんたちは、きっとホッとしたのではないかと思っています。

――編集担当の山下さんは、こどもたちの支持を集めた理由について、どう捉えていますか。

山下 編集者的な観点で言うと、本の読みやすさっていうのが、この本にはあったのかなと思っています。小学生の皆さんにとって、いきものというテーマは、とても人気です。しかも、今まで知らなかった情報が、この本にはいっぱい詰まっています。それで新しい発見があった人が多いのではないでしょうか。文章の長さという観点でも、そんなに長くないし、どのページから読んでも大丈夫。すべての漢字に「読みがな」を振りましたので、低学年のお子さんにも読んでもらえるようになっています。「この漢字は、こんなふうに読むのか」という発見を覚えるのも、新たな魅力です。そんなところが、皆さんに支持して頂いたのかな、と思っています。

今泉 漢字を使って「ルビ」(読みがな)にしているのは良いね。

山下 総ルビにしてみたんです。

今泉 読むだけで漢字を覚えていくから、そういう良いところもたくさんありますよね。

かわいいイラストを楽しみながら、総ルビがふられた漢字も自然に覚えていくことができる

――「文字を学ぶ」という成長もできますよね。

今泉 開いたところを読んでみて、お父さん、お母さんに「いきものクイズ」を出す。そうすると、お父さんやお母さんは分からないから、こどもは快感なんです(笑)。そんな意味でも、とっても良い本だな、と思っています。

高橋書店書籍編集部の山下利奈さん

――先生は永らく代々、動物に関わるお仕事をされていらっしゃいますが、この本を発行されたことをきっかけに、動物の見方が変わったり、今までとちょっと違う視点を持つようになりましたか。

今泉 「いきものは、環境によって本当に変わる」ということが、改めてよく分かりました。たとえば、英国では、工場の近所に生息している「ガ」の色が、ある環境の変化によって大きく変わっていきました。詳細は本の中に書いていますので、読んでみて頂けたらと思うのですが。この本のシリーズを監修するために、動物たちのことを改めて見直していますと、彼らがいかに環境の変化にうまく合わせて生きていこうとしているか、よく分かってきました。人間から見ると「工夫している」とか言うんですけど、工夫はしていない。環境に適応している。そういうのがよく分かるようになってきました。

――「工夫」でなく「適応」。

今泉 50年以上、動物について研究を続けていますが、「もっと自然のことを勉強しないといけないな」と思いました。

――編集部には、こどもたちからどんな感想が届いていますか。

山下 4歳から95歳まで、数えきれないほどの反響の「はがき」が編集部に届いています。小学生の皆さんに向けて出版した本ですが、親世代、おじいちゃん・おばあちゃんと「3世代」にわたって読んでくださる人が多いことに驚きました。「家族みんなで、お互いにクイズを出し合って遊んでいます」というお手紙も、たくさん頂きました。(コロナ禍で休校になる前は)本を学校に持って行き、クラスの皆で読み合って、「人気者になれました」などというお手紙も頂きました。他の本ではあまり経験のないことです。

――読者からの質問で、「ああ、そういう分野もあったな」という発見もあるのでしょうか。

山下 ありますね。3冊目の『続々ざんねんないきもの事典』で取り上げた「植物」は、こどもたちが知りたいと1、2冊目で言ってくれていた声を踏まえて、満を持して入れよう、ということになりました。

―――この本が好きなこどもたちの特徴、また、そんな読者の皆さんに向けて留意している点は。

今泉 この本を読んで下さるのは、皆、素直で、明るい人ばかりです。知らなかったことが、どんどん分かるということが、楽しくて仕方ない。間違えたことを書いたりしたら、大変です。皆さんから、質問や意見が編集部にたくさん届きます。そこで、2冊目の『続ざんねんないきもの事典』では、最初の本には盛り込まなかった恐竜を入れました。シリーズでは「こんないきものもいるよ!」と、紹介の幅を広げていこうと思っています。

山下 編集者とライターがリサーチし、文章にまとめたら、先生がアドバイスを下さいます。こどもたちが読みやすい文章、というのが編集方針ですので、そこに先生が「じゃあ、もうちょっとこういうふうにしたら良いんじゃない?」「本当はこうなんだよ」と助言を下さる。私たちはそのぶん、のびのび作れるんです。

刊行までの仕事を振り返る今泉さんと山下さん

今泉 文字数が少ないから難しいんですよね。いきもののことって、断言できないんですよ。分からないことが殆どですから。だから、それをやると長くなっちゃう。パッと言い切るということが難しい。

――「こういう例外もあるよ、こういう種もあるよ」、そこを省く。

今泉 「ここまでは大丈夫だろう」と、ギリギリのところを判断するんですね。それで、これを超えて書くと投書が来るよ、とか(笑)。

山下 すごく助かっています(笑)。やっぱり私たちは、いきものの知識はあんまりないので、どこまでが正しくて、どこからがちょっと違うのか、そのボーダーラインが難しい。

今泉 長年、晒されてきましたからね(笑)。怖いんですよ、世の中の人って。「そんなことも知らないのか!」って手紙が来るんです。だから、どうしたって慎重になっていますね。50年もやっていると、これは危ないだろう、これは大丈夫、そういう微妙なところを察知します。

――その勘所を捉えた、確かなご経験の蓄積がこのシリーズの役に立っているのですね。それに加えて、イラストも素敵です。ユーモラスだし、文章とリンクさせつつ、単体で見ても面白い。

今泉 いきものの呟きが、また良いんですよ。好きなのは「カカポ」(71ページ)。太り過ぎて飛べなくなったオウム。みんなうまいよね。感心しています。

――本を読み進めていくと、タイトルの「ざんねん」という言葉が、何だか「かわいい」「しかたない」という意味も含まれるように感じます。

今泉 「ゆかい」という感じにも繋がると僕は思います。「ざんねん」は「ゆかい」。「うんと頑張ったけど、ちょっとざんねん。『ざんねん賞』だね」という感じです。それぞれ、一所懸命に生きているけれど、惜しい。そこが、可笑しみを含むのかなという気がするんです。本のタイトルを考える際、初めは「いきものをバカにしているのでは」という意見がありました。でも、いきものに対する愛情や、尊敬の気持ちを持って、この本をつくりましたので、「ざんねん」という言葉がぴったりだと思っています。

今泉さんの微妙な「勘所」に「すごく助かっています(笑)」と山下さん

楽しいこと、面白いことを、実際にやってみることが大切

――「さらにざんねんないきもの事典」が発売を控えていますが、今後も続いていくのですか。

今泉 まだまだ、僕が紹介したいと思ういきものは、いっぱいいます。それから、ひとつの動物の中にも、実は多種多様な「ざんねん」があるんですね。それを、これから1個1個紹介していきたいと思っています。毎回、700から800個の情報を調査し、約100個に絞って本にまとめています。「動物学」と難しく構えるのではなく、読んで楽しめることが何よりも大事。本を読むことは、こどもたちが知識を得ていく1番の「もと」です。家族や友だちと一緒に、皆で楽しめる。そんなシリーズを続けていきたいと思います。

――こんな選挙が今泉先生の幼少の頃にあったら、どんな本に投票してみたいですか。

今泉 『トム・ソーヤーの冒険』にしようかな。『シートン動物記』も捨てがたい。それから、よく読んでいたのは『シャーロック・ホームズ』『怪盗ルパン』などの探偵ものでした。父親は、僕と同じ動物学者。自宅にはいろんな本が送られてきて、片っぱしから読みあさっていたのです。知識を得るための「おおもと」は、本であると僕は思っています。本で得た知識をもって、外に出て行き、実際に確かめる。研究を重ねるうえで、本は何より大切です。自分の好きな分野だけではなく、世の中のいろいろな出来事、しくみが頭に入ってきます。

――皆さんに、メッセージを。

今泉 「頑張らなくても良いから、楽しいことを見つけて、追及してみよう!」。実際にやってみることが大切です。ダメで、もともと。どんなことにもチャレンジしてみると良いと思います。それには、失敗を恐れないこと。「どうしてそんなことをするの?」「面白いからだよ」でOKです。挑戦してみて、いよいよ「これはダメだ」となったら、その時に引き返せば、大丈夫。やる前から「ダメだろう」なんて考えてしまわずに、行動に移してみて下さい!