今回取り上げるのは「映画秘宝」。惜しまれつつ休刊したかと思ったら、版元を変えて瞬く間に復刊。熱烈なファンがついている雑誌の強さを見せつけた。
最新6月号では復刊のあいさつなど冒頭に1ページちらっと出てくるだけで、すぐさま平常運転。「不屈の傑作映画200!」と題し、新型コロナでへこんでいる世の中を、「観(み)れば絶対に元気が出る」と読者を勇気づける。
小さな文字と写真でびっしり埋め尽くされた濃密な誌面からは、書き手たちの書かずにはいられない衝動があふれ出るようだ。私の見たところ、映画雑誌には、ざっくり分けて2種類あって、俳優の顔写真がデカデカと載っていて新作映画の褒め言葉ばかり書いてある雑誌と、ゴチャゴチャした誌面で悪口やシモネタまで何でも書いてある雑誌で、もちろんこれは後者。そして面白いのも断然後者だ。
そもそもどの記事も文体からして弾(はじ)けている。この世には映画評文体というのがあるのだろうか。語るべきことを小利口に語るのではなく、独断だろうが偏見だろうが自分の語りたいことを勝手にまくしたてる文章がめっぽう面白い。スポンサーへの忖度(そんたく)など知ったこっちゃない。文字が小さいのも、書き手の誰もが、もっと書かせろ、と規定の枚数を超えて書きまくってきたからではないか。観れば絶対に元気が出るという前に、もう読んでいるだけで元気が出てきた。
ちなみに「『映画秘宝』が独断と偏見で選ぶ! 問答無用の2010年代ベスト10」第1位は、『マッドマックス フューリー・ロード』。第2位が『オデッセイ』で、このあたりまでは私も納得のランキングだったが、第3位の『レゴバットマン ザ・ムービー』、第4位の『スーパー!』あたりから、どんどんわからなくなって知らない映画が次々出てくる。へえ、こんな映画があったのか、とみるみるのめりこんでしまった。
結局、大事なのは偏愛なのだ。偏った愛。偏愛だったからこそ読者に愛され、版元を超えて生き残ったのだ。
雑誌に限らず、世の中はどんどん偏愛化が進行していて、八方美人ははやらなくなっているが、だからといって偏愛的にものを作れば売れるというわけではなく、偏っているがゆえに理解者も限られるため、どっちにしても売れない状況が続いている。それなら自分が楽しいものを作ったほうがいい。本誌のどこにもそんなことは書いてないけど、雑誌ってもともとそういうものだったよね。=朝日新聞2020年5月13日掲載