1. HOME
  2. インタビュー
  3. 「新あいどる聖書」ZOC香椎かてぃさんインタビュー 「死にたい」なんてもう古い

「新あいどる聖書」ZOC香椎かてぃさんインタビュー 「死にたい」なんてもう古い

文:朴順梨 写真:『新あいどる聖書』(扶桑社刊)より

いつか本にするために、ネタを貯めていた

――ファッションやコスメなど、好きなものを集めたスタイルブックを作った理由は何ですか?

 小学生の時にギャルが好きで、ギャルの子がスタイルブックを出していたのを見ていて面白いなって思って。自分もスタイルブックを出せたらいいなって思ったんです。だからコスメとか好きなものとかを、あまりネットに載せないようにして撮りだめてきました。いつか本にしたいって思ってたから。なので「本を作りませんか?」って言われた時は「やりたい! コスメとか服とかをわかりやすく載せたい」ってすぐに返事しました。

――お気に入りアイテムだけでなく、生い立ちや友人のことまで、隠すことなく触れていますね。

 ギャルのスタイルブックをイメージしているので、赤裸々に書きました。重版かからないぐらいの売れ行きだろうって思ってたら、発売前に重版が決まったと聞いて、驚きました。

(注:小悪魔agehaはじめギャル御用達の雑誌や本は、登場するギャルのライフヒストリーや傷などに触れることで、読者からの共感を集めていた)

何かを捨てても自分を取るのがラク

――ZOCはメンバーの多様性が特徴だと思います。かてぃさんは喫煙をオープンにしていますが、最初は勇気がいったのでは?

 はじめてTwitterに写真をあげた時は、中学生がよくやる「俺タバコ吸ってるんだぜ」ぐらいのノリだったんです。最初は結構批判があったんですけど、今はInstagramのおすすめに出てくる人たちが、タバコを持ってる仕草をしている (笑)。

――3月に巫まろさんが新メンバーになりました。かつてアイドルグループで活躍していたまろさんが加わったことで、何か変わりましたか?

 これまでのZOCは見た目からして、いかつ過ぎたので、まろちゃんが入ってアイドルっぽいイメージになったのでは?って思ってます。5人の時はかわいらしさがなくて、強すぎる感じの見た目だったから、ツインテールとかたれ目メイクにしたりしてたんですけど、逆に怖い感じになっちゃってたから……。

――今の自分はアイドルになれたと思っていますか?

 いやあ~、思ってないです。気合いで「アイドル」って言ってますけど、まだなれてない、っていうか、なれない。何でかな、言葉遣いとかなのかもしれないけれど、ずっとアイドルになれていないんです。ファンの子からは「枠にとらわれるな」って言われますけど…… (笑)。

――でも本のタイトル、『新あいどる聖書』じゃないですか。

 「香椎かてぃ」って名前は知られてきたって思うんですけど、「お前アイドルだったんかい!」ってすごく言われるんです。だから新しいアイドルになりたいし、新しいアイドルだって言いたくて。

――嫌われたくないあまり、かてぃさんのようにも素を見せられない人も多いと思います。

 なんですかね、何かを犠牲にしないと自分らしく生きられないと思うんですよね。うちは汚い面をさらけだそうと思ってなかったのに、過ってさらけだしてしまった。でも「もう何日もお風呂に入ってない」とか言ってしまったら、スッキリしたんです。だから男の子のファンが増えないのはわかってるけど、何か捨てても自分を取るのがラクなのではないかと。

 それに男の子の味方でもありたいけれど、要素的に嫌われがちだし、女の子の気持ちがすごくわかるので、まずは女の子の味方でありたいんです。

「私の人生の方がマシ」と見下して欲しい

――かてぃさんはファンからのコメントにリプライを付けたりと、SNSを活用していますが、「SNSが苦手」でもあるそうですね。

 小学生の頃からギャルのブログ交流サイトが好きで、ずっと見てたんですけど、ギャルって若者の心をつかむのが上手いんです。気の利いた回答をすぐにするし、流行りモノをどう見せたら読んでる子たちが食いつくかが分かっていて。それをすごく参考にしてるのですが、今も得意じゃないです。自撮りを載せるのも嫌だっていうのもあります。

 今はきまぐれに返信していますが、あるところで「かてぃちゃんは1つの投稿で5万ぐらいのファボがつくね」って言われたのがプレッシャー過ぎて……。最近はSNSに載せるのがちょっと嫌になってきました。

――とはいえ「死にたい。どうしたらいい? かてぃちゃんが決めて欲しい」というファンからのDMに、とても真摯に回答していましたね。

 だって、「死にたい」って言いたくなる気持ちはわかるんです。「死にたい」って言うと、自分の中でスッキリするものだってことも。でもZOCは「クッソ生きてやる」って歌ってるんだから、「死にたいを新しい言葉に変えたらどう? 死にたいってもう古いよ」って、昔流行ったギャグがもう古い、みたいな気持ちになってもらいたくて。だから一時期DMはよく返してました。

――「かてぃちゃんをこんな私が推していいのかな」って、自分を卑下してしまうファンもいます。

 うちも自己肯定感が低いんです。本当に自分に似ている気がするので、言ってることはわかります。でも私は皆に親近感を感じて欲しいから、「アイドルでも風呂入んないんだぜ」「屁もこくんだぜ」みたいなことを伝えて、アイドルって存在を近くに感じてもらえたらって思ってて。うちに対しては「好きでごめんなさい」じゃなくて、「こいつ余裕だわ」ぐらいの感じで見て欲しい。

――アイドルになってから、自己肯定感はあがりましたか?

 あがらないです(笑)。でも低いままでいいです。一生私は私のことが嫌いなままだと思います。

――今回の本を通して、何を伝えたいですか?

 本当に今の若い子は、なんですかね、たとえば「男と別れて自殺しようか迷う」とか連絡が来るんですけど、そんな他人のしょうもないことで死ぬとか言ってんじゃねーよって思うんです。もちろんそのしょうもないことが、その子の人生にどれだけ大きく関わっているかっていうのは分かっているんですけど……。

 だから同年代の子たちに読んでもらいたいです。色々な人生があると思うんですけど、私の人生が過酷だったことがこの本から分かるはずなので、「ああ、私の人生の方がマシだ」って見下して欲しい。「かてぃちゃんの方が辛そうだから、私はまだまだ生きる」って思って欲しい。それで前に進めるようになって欲しい。人が書いた長い文章って退屈だと思うんですけど、ぜひ人生のお力になれたらなって思っています。

 メンズの方もメイクを真似してSNSに投稿してくれると嬉しいですし、部屋に飾ってくれると嬉しい。すべてのページにすごく愛情を込めましたので、細かく読んでくださいって言いたいです。

――本を書ききった今の気持ちは?

 自分のことを書いた本を出すのが一番の目標だったので、うん、戦争が終わった感じ。でもまた戦争したいですね。次はなんだろうな、誰かのメンタルがやられた時に、その人が元気になれる本を作りたいですね。それが何かはわからないですけど……あ、絵本とかぬり絵とか?(笑)