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「白人ナショナリズム」書評 「文化的反動」現象の細部たどる

評者: 生井英考 / 朝⽇新聞掲載:2020年07月11日
白人ナショナリズム アメリカを揺るがす「文化的反動」 (中公新書) 著者:渡辺靖 出版社:中央公論新社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784121025913
発売⽇: 2020/05/20
サイズ: 18cm/212p

トランプ政権の誕生以降、白人至上主義と自国第一主義が結び付いた「白人ナショナリズム」が広がるアメリカ。社会の分断が深まるなか、自由主義の盟主はどこへ行くのか。草の根のリア…

白人ナショナリズム [著]渡辺靖

 4年前の米大統領選で「トランプ勝利」の激震が走って以来、世界中で一斉に「トランプ支持者」の正体探しが始まった。
 当初は「プアホワイト」や「ポピュリスト」が挙がったが、しだいに高学歴者や富裕層も多いという話が増える。そこへ時機よく登場したのが本書である。
 著者はアメリカ研究が専門の文化人類学者だが、本書を「これまでで最も難しい一冊だった」という。
 なにしろ主題はトランプ旋風とも縁が深く、近年の米社会「分断」の主因とされる白人至上主義運動。その指導者らとじかに接し、「まるで学会のような」彼らの年次会合にも参加した上での概説である。
 実は「白人ナショナリズム」は通称。「反移民」「反イスラム」「反LGBTQ」「ホロコースト否定」「男性至上主義」「ネオナチ」等々と勢力多岐にわたる上、食い違う主張や矛盾も多い。つまりこれは哲学的考察を経た(伝統的な意味での)政治思想ではなく、一種の文化現象なのだ。表紙にいう「アメリカを揺るがす『文化的反動』」こそ真の主題というべきだろう。
 この種の現象をフィールドワークするのは案外難しい。著者は活字やネットのヘイト言論と連日つきあって夜中の夢見が変わり、「日々の生活で出会う白人が皆、ナショナリストのように思え」た経験を披露する。また接した面々には親日家が多く、「実直で、礼儀正しく、友好的で、親切で、ユーモアのある人がほとんど」ともいう。
 人類学や社会学ではつきものとはいえ、対象の「内側」によりそう行為は相手の情念に巻きこまれる危険をともなうのだ。
 むろん著者はそこに自覚的だが、新書ながらも短兵急を抑え、つとめて羅列的に現象の細部をたどっているだけに未整理な印象もある。白人至上主義者の日本びいきなど、そこだけ見て訳知り顔する向きを誘発するかも、などという心配は杞憂(きゆう)に過ぎるだろうか。
    ◇
 わたなべ・やすし 1967年生まれ。慶応大教授。著書に『リバタリアニズム』『〈文化〉を捉え直す』など。

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