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青木真也さん「距離思考」インタビュー 会社や家庭に縛られない、最適な人間関係をみつけて

文:井上良太、写真:有村蓮

格闘家には「物語性」が重要

——青木さんは趣味が書くことや読書ということですが、きっかけは何でしょう?

 書くのに限らずモノを作ることが好きですね。もちろん書いて形にしてもいいし、試合の中で物語を作るのもそうです。僕は元々、プロレスラーになりたかったんだけど、体が小さかったから格闘家になった。プロレスもそうであるように、昔から物語を作りたかったんです。

——ふだんどんな本を読みますか?

 特別何が好きとかはないです。ビジネス書でも古い本でも、話題になっているものはたいてい読みます。僕たち格闘家は、世の中とリンクしていないと価値がない仕事だと思っていて。たんに試合をしました、勝敗が決まりました、だと「ふーん」と思うだけ。熱狂を起こすには、格闘家と見る者を繋ぐ共通項を作り、自分事のように描けるか。「物語性」を持たせられるかが重要になってくるんです。だから僕の場合は、世の中との共通言語を得るためにも本を読むようにしています。

——古い本というと、7月2日に発売された青木さんの新著『距離思考』の中で、昭和の作家・坂口安吾の名前が出てきたのは印象的でした。

 坂口安吾だけでなく、同時期だと三島由紀夫や太宰治もそうだし、昭和にはそれまでの「当たり前」に異を唱えるキレッキレの人たちが多くて興味深いですよね。それに彼らが言っていることって、現在の格闘技界や、コロナ禍の社会に起こっていることと置き換えられると思うんです。

 例えば、坂口安吾は『日本文化私観』の中で、仏教が必要なら、神社仏閣がなくなっても坊主がいれば大丈夫だと言っています。団体が立ち上がっては潰れる格闘技界も同じで、大切なのは格闘家一人ひとりの思想・信念であって、必ずしも団体が必要なわけではないと僕は思います。

 そして彼は『堕落論』で、第二次世界大戦の前後における価値観の変化についても論じている。三島由紀夫も、当時の右向け右の社会に対して一石を投じたわけだし。そうした新たな価値観を見出そうとする気概は、コロナ禍の今ともリンクして考えられるので、あのあたりの作家を読んでおくのはといいと思います。僕はキャリア的にも後輩や知り合いから相談を受けることも多いので、そういうときに本を勧めることもあるし、自分から「読書テロ」をすることもありますね。

——「読書テロ」という言葉は初めて聞きました(笑)。

 以前、格闘技のスタッフとケンカになったことがあるんです。「テメーこの野郎」「なんでそんなにアテンドが悪いんだ!」みたいな。その後、スタッフから謝罪のLINEが届いた際、見城徹さん(編集者、幻冬舎代表取締役社長)の『たった一人の熱狂 仕事と人生に効く51の言葉』の購入ページのURLを送ったんです。そしたら2日後ぐらいに「買いました。誠意とは……」みたいな返事がきて(笑)。ケンカになった相手や、後輩に気合を注入する意味で送るのが「読書テロ」です。

人生、右肩下がりからが面白い

——効果抜群じゃないですか(笑)。物語性を大切にし始めたのはいつ頃からでしょう?

 特に大切にし始めたのはここ数年かな? 理由は率直に言うと、自分のパフォーマンスが落ちたから。上り調子のときにはそんなもの必要ありません。格闘家として頂点を目指す立身出世の時期なんて、それ自体が物語なんだから、ひたすら突き進めば人は感情移入してくれるんです。ただ、年齢を重ねてキャリアが右肩下がりになったとき、持っている資産でいかにやりくりするかが大切になってくる。それこそ培った経験や技量を用いて物語を紡いでいく。だから格闘技などスポーツに限らず、面白くなるのは成長が望めなくなって右肩下がりになってからですよ(笑)。

——ユニークな考え方ですね。青木さんはデビュー直後から「孤高の格闘家」という独特のイメージがありますよね。

 勝ち続ける、成功し続けるうちに慢心が生まれてくる。そうならないために、満たされぬよう孤独になるしかないと思うんです。その作業はとてつもなくつらいんですけどね(笑)。押しつぶされて屈してしまう人もいるし、時には何かに溺れてしまうでしょうし。さらに、自由を得るためにも孤独は絶対的に必要だと思う。孤独と自由ってトレードオフの関係で、みんなで協調していけば孤独はないけど自由を失ってしまう。これって格闘技だけでなく、会社や友人、家族といった関係でも言えることなので、実は多くの人が抱えているテーマだと思うんです。

——プライベートだと、結婚生活がうまくいかなかったということも『距離思考』の中で語られています。それも青木さんが人との距離を考えるきっかけだったのでしょうか。

 それもありますね。2015年に、プロレスラーであるケンドー・カシンさんとプロレスをやって、桜庭和志さんと格闘技の試合をしたんです。2人とも僕にとって憧れの存在。そこで、それ以上の幸せはないほど、格闘家としての夢が叶ったんですよね。それで気が抜けたというか……下り坂になって、同じ頃に家庭もダメになり「しんどいな」と思うようになった。頑張る理由がほとんどなくなってしまい、引退して田舎暮らしでもしようか考えたぐらいです。

——そんな時期があったんですか。でも、今もまだ現役で戦っているじゃないですか。

 今も現役でいられるのは「ファミリー」のおかげです。2017年の11月に「ONE Championship」の世界ウェルター級タイトルマッチで負けて、引退という言葉が本気で頭をよぎりました。ちょうどその日の会場には、友人であるGOの三浦崇宏さんと、幻冬舎の箕輪厚介さんが見に来てくれていました。敗戦後、引退を考えた僕は2人に「これからどうしようか」って呟いたんですが、三浦さんが「まだまだやりましょうよ」と言ったんです。その言葉に僕は助けられたと思っていて。

 当時はとても歪で、周囲の人間は僕に「やれ」とも「やるな」とも言えなかった。それだけ結果も出してきたし積み上げてきたから、何も言うことができなかったんです。でも、そんな中で、格闘家ではない三浦さんがなぜか「やりましょう」と言ってくれた。本当にすごいと思う。そこから2018年、19年と格闘家として持ち直したというか……「再生」と言った方がいいのかな? あの言葉で僕は救われて、新しい人との繋がり方、価値観を見つけたんです。

適度な距離感で支え合える「ファミリー」

——『距離思考』は、そうした経験から書かれていると?

今の時代、次から次に新しい価値観が生まれているのに、一方で人との関係性となると、まだまだ会社や家庭に縛られて生きている人が多いじゃないですか。SNSもそう。人との繋がり方は変容しているけど、そこでも思ったことが言えなかったり。それって、みんなそろそろしんどいんじゃないかなと。自分にとって最適な「型」を見つけられれば、もっと豊かになれるんじゃないの?って伝えたくて書きました。

——本の中で、三浦さんや箕輪さんのような適度な距離感で支え合える人を、青木さんは「ファミリー」と定義しています。

 もちろん、従来の「家族」というものを否定したいわけじゃないし、それが合う人はそうすればいいと思う。僕の場合は、結婚して自分を「家族」という型にはめ込もうとしたけど、みんなが幸せになれるかたちにできなかった。そんな僕が見つけたのが、自分にとって都合のいい距離でいてくれる「ファミリー」だったんです。どっちが良い悪いではなく、自分たちに合う型を見つけましょうよ、というのが本で伝えたいことです。

——とはいえ、やはりまだ社会は「家族」を特別視しているし「こうあるべき」といった考えが根強いですよね。

 離婚したら「スーパーダメ人間」のレッテルを貼られてしまう圧力がありますよね(笑)。あれって何だろう? おもしろいのは、僕は家庭がうまくいっていないことを周囲に包み隠さず言うんですが、そうすると「実は……」みたいな相談がこっそり届くんですよ(笑)。みんなそれぞれ悩みがあるけど大っぴらに言えないんです。僕や三浦さん、箕輪さんは、自分たちの失敗やダメっぷりも笑い話にしちゃう。その強さは僕が見つけた「ファミリー」という型ならではなのかもしれないですね。

——本の中に「僕たちは誰もが皆、少しずつ欠落している。完璧な人間なんていない(P29)」という一文があります。完璧じゃないことを肯定しているというか。

 作り手は、どれだけ欠落しているか勝負ですから(笑)。完璧じゃないから魅力的でおもしろいんですよ。例えば試合のサポートに入って、いつも強気な奴がバックステージで緊張しているのを目にするとすごく美しいと感じる。聖人君子みたいなキャラクターの芸能人が裏でドロドロの不倫をしてるとかもそう。

何事もおもしろがれることが豊さ

——でもそれはやっぱり稀有な考え方で、欠落していたり未熟だったりする部分を、多くの人は認めたくないし隠したいんじゃないですかね。

 歴史を紐解けば、そんな話はいくらでも転がっていますよね。甘粕事件(1923年)で亡くなった伊藤野枝なんて、戸籍上の夫がいるのに作家の大杉栄とぐちゃぐちゃの愛人関係で。そんなのと比べたら、有名人の不倫ゴシップなんてかわいく見えますよ。僕の場合、一般的にダメとされることをおもしろがれないのが貧しさだと感じてしまうのかな。離婚も不倫も推奨するわけではないし、襟を正すところは正さないとだけど、何事もおもしろがれることが豊さだと思うんです。

——過激な発言ですね(笑)。

 もちろん、そういう発言をしているとバッシングされることが多々あります。でも大切なのは「自分が何にストレスを感じるのか」「自分がどうなりたいのか」を一度ちゃんと考えること。周囲の目やしがらみを取っ払って考えてみてほしい。そうして見つけた価値観が僕にとって「ファミリー」だったし、今の時代、各々が幸せになれる新しい型があると思うんです。

——今後、社会を変えていきたいとかありますか?

 大義は全然ないんですよね。三浦さんや箕輪さんのような気の合う「ファミリー」が周りにいて、のうのうと生きたい(笑)。世の中を大きく変えたいとかではないけど、みんなが今よりもう少し楽しく生きてけるような世の中にしていきたいぐらいですよ。