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伊東歌詞太郎さん「僕たちに似合う世界」インタビュー 「ちゃんと自分で自分を好きでいて」

文:田中春香、写真:斉藤順子

どんな道も夢への遠回りにはならない

――地道な路上ライブ活動やネット投稿から、今や人気のシンガー・ソングライターとして活躍する一方、小説家としても『家庭教室』を発表するなど多彩な創作を行ってきた伊東さん。初のエッセイ執筆はご自身にとってどのような経験になりましたか?

 今まで自分の人生を振り返るということをほとんどしてこなかったんです。でも、エッセイを書くことが決まってある意味「強制的に」振り返る形になりました。過去を振り返って来なかった分、他人の人生を見ているようで新鮮でしたね。率直に「こんなことやってたの? バカじゃない?」って(笑)。途中から自分で自分がおもしろくなっていました。

――幼い頃から歌手を志し、歌を本格的に習うために入った劇団が実は演技レッスンしかやらない劇団だったり、突然サックスプレイヤーを目指して猛特訓し、2カ月で辞めたり……たしかに、遠回りをしている場面がいくつか出てきますね。

 そうなんですよ。ただ、一見遠回りなことも、遠回りではないんじゃないかとも思います。目標到達点への最短距離って、一直線ではない。他人から見たら遠回りに見える道からも、学ぶべきことはあるんですよね。ただただ必要な道を一歩一歩あるいていくことが、結果的にその人にとっての最短距離になるんじゃないかと。

 結局、夢って、「諦めるか諦めないか」でしかないと思うんです。諦めなければ、どの道も遠回りの道ではなくなるんですよ。

自信を持つために、自分を愛そう

――エッセイの中では「“自分を好きでいること”は“自分に自信をもっていること”とイコールだと思う」といった言葉をはじめ、「自分を愛そう」というメッセージが繰り返し発信されているように感じましたが、いかがでしょうか。

 家庭教師の経験がひとつのきっかけになっていますね。教師としていろんな家庭にお邪魔して、人間の深い部分をたくさん見てきました。

 この日本社会って「ちゃんと自分で自分を好きでいる」ことがすごく難しいんです。でもそれは自分を好きになれないその人自身が悪いわけではなく、学校だったり、親だったり、環境のせいなんですよね。特に、家庭っていうのが大きな割合を占めていると僕は思います。

 家庭教師として授業の中で一生懸命そのことを伝えて、一時的には生徒に響いても、1週間経って次の授業の時を迎えるとまた元に戻っている……。これはひょっとして両親に何か原因があるんじゃないか?と思って掘り下げてみると、見事にそうだったりするんですよ。時には両親と向き合って会話することもありました。

 自分を愛するってことは、実は人間単体で考えるとできないことではないはずなのに、周りの影響を受けてそれができなくなってると感じます。

――伊東さんご自身も幼少期のいじめや父親との関係など複雑な環境で過ごしてこられましたが、ご自身がグレたり、道を外れたりしなかったことにはなにか要因はあると思いますか?

 意識が音楽に向いていたからでしょうか。キャパシティがそれしかなかったから。グレなかった理由に「どんなことがあっても音楽で食っていくという強い気持ちがあったから」と過去のインタビューで答えたりしたこともあったんですけど。もっと単純に、脳内のCPUに音楽以外のものを受け入れるスキマがなかったというか(笑)。でもそれでよかったと今は思っています。

――伊東さんのように「これだ」と思えるものがない人や、自分に自信がない人はどうすればいいでしょうか。

 自分に自信がない、これって、自分のことを好きになれてないってことだと思うんですけど、これも世間の価値観が良くないと僕は考えています。「優れている人とは、こういう人」というマスメディアからの情報に対して「そこに自分は合致しない」と自己判断をして自信を失ってしまう。

 でも、人の価値ってそんなものじゃないですよ。自信がない時って、悪循環で、身動きがとれなくなっていったりするからますます自分を肯定できなくなってしまいますよね。でも、なにか一つでも昨日と違う自分を今日見つけてあげたり、作ってあげたりすると自分を好きになっていけると思います。

――違う自分、ですか。

 どんな些細なことでもいいんですよ。「今日は友達とこんな会話をした」とかでいいんです。「そんな考え方があるんだ」っていう何気ない気づきだって、昨日の自分の中にはなかったものだから。それを成長って呼んであげていいと思います。

 小さな心の動きを「そんなちょっとの変化、意味ないでしょ」って切り捨てないで受け止めてあげる。これを365日続けていったら365回アップデートできたことになるんです。良い方向に、自分で自分を導いてあげることをしてほしいなって思います。矛盾するかもしれないけど、人が変わるのってすごく大変だとも思うんです。だからこそ、日々の小さな変化を積み重ねて、自信に変えていけたらいいですよね。

夢を探し続ける才能もある

――「人間は好きなものを見つけるべきだ」といったような押しつけがましさは、伊東さんにはありませんよね。

 だってね、好きなものなんて、そうそう見つからないですもん。見つけること、見つかることが当たり前という風潮や教育もやっぱり違うと思うんです。よく「自分の個性を探せ」って学校の先生は言うけど、「探せ」と言ってる時点で「個性がない」って決めつけてると思うんです。生まれた瞬間から、顔も、性格も、声も、人間は個性だらけなのに、なんで個性がない前提で話が進むの?って。でも、小学生の頃は自分も同じように無意識のうちに納得させられていた。だから、家庭教師として、子どもたちに向けられた間違ったメッセージを訂正していく作業をしていた節があります。

 周りの人の意見って、聞かなくていいと思うんですよね。「好きなものを見つけろ」「夢を作れ」、大人たちはそう言います。でも、逆に大人たちに問いたい。「あなたたちは子どもの頃の夢を叶えたんですか?」と。それでいて、夢を叶えようとしている人に対して「無理だ」と言うのはなんでなんですか?って。叶えようとしてる人の足をひっぱらないでと言いたい。

――まさに、こうあるべき、の「押しつけ」ですね。

 僕はたまたま自分の夢がはっきりとあったラッキーなタイプ。でも、夢なんて見つからないのが当たり前だと思います。見つからないことに落胆しないでほしい。死ぬまでやりたいことを探し続けたとしても、探し続けたということ自体がその人の才能だと思いますし。自己否定なんてしなくていいと考えているから、僕の中には押しつけがましさがないんだと思います。

孤独を抱えるあなたへ

――過去の自分へ向けた、「君が今感じている孤独とかそういうものは正しいよ」という言葉が印象的でした。同じように孤独を抱えている読者の方は救われると思います。

 いじめだったりとか、家族との関係だったりとか、自分で簡単に環境を変えづらいことで悩んでいる人もいるかもしれません。その悩みを、自分の人生経験として昇華することができれば立派な「個性」になる。「長所」にさえなりうると僕自身が身をもって体感したので、今孤独を感じていて「自分は間違っているんじゃないか」と思っている人には「そうじゃないんだよ」ということを伝えたいです。

 孤独にくじけてそこで動けなくなっているのであれば、今はそれでいい。動けるようになるまでしっかり休む。休んだらちょっとだけ動いてみる。動けば、少しは景色が変わる。景色が変わればわかることもある。人生に「遅い」ことってないと思うんです。自分の頑張り次第。だから、自分自身で「自分の人生はもう手遅れだ」って決めつけないことが大事だと思います。