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茶葉のポテンシャル 湊かなえ

 猛暑続きの今夏、マイブームは「水出し」です。

 新型コロナウイルスによる外出自粛中、買い物の回数や量を減らすため、ペットボトル飲料の購入を控えることにしました。また、毎日のように訪れていたコーヒー店の喫茶コーナーも休業となったため、一日分のコーヒーをすべて自宅で淹(い)れることになりました。

 季節が夏に向かう中、冷たい飲み物は常備しておきたい。そこで目に留まったのが、コーヒー店の販売棚にあった「水出しボトル」です。お茶用とコーヒー用があり、それぞれフィルター部の素材や形状が異なるため、両方購入しました。

 使い方は簡単。ボトルに茶葉やコーヒーの粉を入れ、水を注ぐだけです。とはいえ、きちんと抽出されるのか。栄養素も旨味(うまみ)も、お湯を沸かして作った時と同様かそれ以上でなければ、納得できません。

 ボトルをじっと眺めている必要もなく、仕事などしながら、冷蔵庫で寝かせること数時間。どちらも、なかなかいい色が出ています。特に緑茶は、これまでに見たことがないような、透明感のある深緑色です。

 早速、グラスに注いでひと口。いやはやビックリ! 普段、こういう表現はあまり用いないのですが、これに関しては、別の言葉が出てきません。苦味も渋味もまったく感じられない、旨味と香りが凝縮された味だったのです。新しく購入した茶葉ではありません。

 こんなに高いポテンシャルを秘めていたのに、今まで上手(うま)く引き出せず、緑茶はそこまで好きじゃない、などと思っていて、申し訳ございません! 茶葉に対して頭を下げたくなったくらいです。もちろん、コーヒーも負けていません。

 何よりいいのは、どんなに慌ただしくても、じっくり時間をかけて淹れたお茶やコーヒーを飲んでいる時だけは、時間を大切に、日々を丁寧に過ごしている気分になれることです。水分補給を楽しみながら、皆さんも、お体大切にしてください。=朝日新聞2020年8月26日掲載