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アタリマエの日本語を疑う 柳父章「日本語をどう書くか」など山田航さんが薦める新刊文庫3冊

山田航が薦める文庫この新刊!

  1. 『日本語をどう書くか』 柳父(やなぶ)章著 角川ソフィア文庫 924円
  2. 『ぼくが戦争に行くとき 反時代的な即興論文』 寺山修司著 中公文庫 990円
  3. 『私の箱子(シャンズ)』 一青妙(ひととたえ)著 ちくま文庫 880円

 (1)はタイトルから想像するような文章入門の類ではない。比較文化論の視点から、日本語の「書き言葉」を分析した本である。日本語の「話し言葉」と「書き言葉」の断絶は、歌人として強く実感する。何かと「正統性」の衣装をまといがちな「書き言葉」が、古くは漢文の訓読文、新しくは英訳文と、綿々と続く翻訳文化によって成立してきた「人工言語」であることを論証しようとする。たとえば現代日本人が当然のように使っている句読点や段落は、近代に西欧語の表記法の影響を受けて新しく取り入れられたもので、本来の日本語文はひとつなぎに表記するのが一般的だった。現代日本人にとっての「アタリマエの日本語」が、いかに不自然なものであるかを教えてくれる。日本語の常識を疑う刺激的な一冊だ。

 (2)は一九六〇年代末の評論集。学生運動をはじめとした当時の社会ムーブメントへの批評や、石井輝男やゴダールなどの映画論、さらには釜本邦茂など同世代のスポーツ選手を論じたものもある。いうならば、サブカルチャー時評の先駆といえる本だ。当時相次いで起こったという造反卒業式(学校の式次第を無視して生徒が自主的に行う卒業式)などの「反逆のユースカルチャー」は、今この時代において、どういうふうに生き残っているのだろうか。

 (3)は、日本統治下の台湾で生まれ、終戦により突然「台湾人」になった亡父・顔恵民(イエンフェイミン)の生涯を追うエッセイ。台湾と日本、二つの祖国に揺れる家族の姿を、娘の視点から描く。著者の妹は歌手の一青窈。=朝日新聞2020年9月19日掲載