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宇佐見りん「推し、燃ゆ」書評 見返りない応援 祈りのように

評者: 大矢博子 / 朝⽇新聞掲載:2020年10月17日
推し、燃ゆ 著者:宇佐見りん 出版社:河出書房新社 ジャンル:小説

ISBN: 9784309029160
発売⽇: 2020/09/11
サイズ: 20cm/125p

推し、燃ゆ [著]宇佐見りん

 推しを推す――好きな人や物を応援するという意味だ。アイドルユニットの中の「一推しのメンバー」が「推しメン」と略され、さらに「推し」だけで使われるようになった。そこから人だけでなく、キャラクターやスポーツのチーム、創作物など幅広いジャンルに広がった言葉である。
 推しの存在は、往々にして生きる元気になる。変わりばえのしない日々の中、推しのコンサートや出演映画の公開を楽しみに待つ経験は誰しもあるだろう。
 デビュー作『かか』で文藝賞・三島由紀夫賞をW受賞した著者の第二弾は、そんな「推し」にはまる生態を描いた物語だ。だが、推しに人生を救われたなどの感動物語を予想していると背負い投げを食らう。
 主人公のあかりは生きづらさを抱えた高校生。家庭にも学校にも馴染めず、他人が難なくできることも巧くこなせない。「病院の受診を勧められ、ふたつほど診断名がついた」あかりだったが、アイドルグループ「まざま座」のメンバー上野真幸を推し始めてからは「推しを推すことがあたしの生活の中心で絶対」になり、それが自分の「背骨」と感じるようになる。推し仲間とコミュニケーションを取り、CDの費用を稼ぐために苦手な接客バイトを懸命にこなす。
 だがそんなある日、推しがファンを殴って「炎上」してしまう――。
 お金と時間とエネルギーを推しに注ぎ込む生活。見返りのない一方通行の「推し活」の様子が、希望と危うさの両方を孕(はら)みながらつぶさに描かれる。推しはあかりを直接には救わない。あかりの実生活はどんどん行き詰まっていく。それでも「推すことはあたしの生きる手立てだった。業(ごう)だった」とあかりは考える。
 依存とも逃避とも恋愛とも違う、強いて言えば祈りだ。その繊細な心理を21歳の著者が圧巻の表現力で紡ぐ。推しのいる人もいない人も、このひりつくようなリアルに瞠目せよ。
    ◇
 うさみ・りん 1999年生まれ。現在大学生。デビュー作『かか』で今年、三島賞を史上最年少の21歳で受賞した。