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おっかさんの宝箱 湊かなえ

 大学生の頃、一人暮らしのアパートに、母が時々、小包を送ってくれました。実家で採れた野菜や果物、お好み焼き用のソース、幼い頃から慣れ親しんだ品々を箱から出しながら、ふと、緩衝材代わりの丸めた新聞紙を引き延ばすと、「広島ホームテレビ」といった地方局の名前が目に留まり、さらに懐かしさが込み上げてきたものです。

 この春から大学生になり、しばらくはリモート授業が続いたものの、なんとか学校での対面授業も開始され、予定より数カ月遅れで家を出て行った娘に、そろそろ何か送ってみようか。そんな話を近所の友人にしたところ、その方が娘さんに送ったという、荷物の蓋(ふた)を閉める前の写真を見せてくれました。

 誕生日? と聞いてしまったほど、箱の中に詰まった可愛らしさが溢(あふ)れ出しているような一枚でした。品物は、地元で人気のパンやお菓子など日常的なものですが、見習うべきはその見せ方です。ビタミンカラーの緩衝材を敷き、配置や角度を工夫しながらラベルを上に向けて並べ、ユニークなマスコットや美しいポストカードを添えて仕上げる。

 もしも、これが自分宛(あて)なら……。特に、上手(うま)くいかないことがあったり、寂しい気分になったりしていたら、箱を開けた瞬間、どんなに励まされることだろう。写真を撮ってお守り代わりにするかもしれない、と勝手に涙。新聞を丸める時代は終わったのかもしれない。そんな寂しさが3割。私も素敵な荷物を作るぞ、と闘志が7割。

 本を通じて出会った人たちから届いた秋の果物のお裾分け、淡路島民みんなの大好物である(と私が信じて疑わない)味付け海苔(のり)、仕事帰りに立ち寄った店で見つけた、さつまいもと栗のジャム……。

 出来た荷物は娘の宝箱になり得たのか。スマホに届いたメッセージからでは判断しづらいものの、元気でいてくれたらそれでよし! そんな田舎のおっかさんの願いは、今も昔も変わらないはずです。=朝日新聞2020年10月21日掲載