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「ニトリの働き方」 創業者・似鳥昭雄さんが語る仕事論 ビジネスに悩む人のヒントにも

文:園田郁子 写真:松嶋愛

ニトリには年功序列がない

――ニトリパーソンが仕事をする上で大切にしている“観・分・判”とは何でしょうか。

 チェーンストアを研究するペガサスクラブという団体がありまして、そこの故・渥美俊一先生に教えていただいたんです。「観察」「分析」「判断」が大事だと。

 観察するというのは見ることではなく、問題を発見すること。

 分析は、なぜそうなったかという原因を突き止めること。

 判断は、観察と分析を正しく行い、具体的で正しい改善案・改革案を立てる、ということです。

 改善案はすぐに実行できる応急処置ですが、改革案を立てるにはシステムを変えるなど、根本的に問題を解決する必要があるため、実行するまでには少し時間がかかります。

 ニトリではウィークリー・マネジメントレポートを提出します。月次決算ではなく週決算。前週の観・分・判を毎週月曜日に提出します。20代、30代、40代とずっとです。続けることで、社員は問題を発見することができるようになります。

 仕事ができるかできないかは、問題を発見できるかできないかということ。問題が発見できなければニトリの社員とはいえません。

 私は観・分・判をしているから新製品の開発ができるんです。もちろん社員も観・分・判をしているのですが、まだ十分とは言えません。それは、客の立場ではなく、自分の立場で考えてしまうから。ベッドを例にすれば、大事なことはお客様が寝やすいとか、疲れが取れるということであって、ブランドなんか関係ないのです。「客の立場に立て」と言葉で言うのは簡単ですが、実行するのは難しいものなのです。

 ニトリには年功序列がありません。年功序列は世の中の会社を堕落させる一番の原因です。それから、10段階評価も人を堕落させますね。5のあたりだと「ゆでがえる」理論のぬるま湯につかっている状態。世の中の9割は「自分たちは仕事をしている」って錯覚しています。

 5年くらい同じ部署にいると化石に、10年いるとゾンビになって取り返しがつかなくなっちゃう。会社にとって最大の教育は経験教育です。教育の9割は現場で教えるから、ニトリはどんどん配置転換して頭と体、両方で知識を身に付けられるようにしています。

 社員には「短所があることを喜びなさい、しかし長所がなければ悲しみなさい」と言います。

 また、上司にあたる社員には、部下の長所を見つけて伸ばしてあげるように言います。なぜなら、人は自分の短所には自覚があっても、長所には気づきにくいものだからです。

ロマンとビジョンが成長のカギ

―― ニトリにとって最も大切な「もの」や「こと」はどんなことでしょうか。

 ロマンとビジョンです。会社としても個人としても、「世のため、人のため」になることをするというロマンを、なんとしても実現するという強い覚悟を持つことが大切です。

 この世に生を受けたということは「人の役に立ちなさい」という使命をもらったということなんです。私はそう思って生きてきました。

 社員には会社のためとか、会長のためとか、そんなことはどうでもいいよと言います。ロマンとビジョンを実現するために邁進(まいしん)し、そして自己成長してくださいと。自己成長しようとする人が集まることで、会社が成長するのです。

―― ロマンとビジョンが大切だと思うようになったのには、会長に何か特別な出来事があったのでしょうか。

 30歳の頃、事業がうまくいかなくて、これを乗り越えるためには精神力が必要だと断食を始めました。

 物欲とか色欲とか飲酒とか、人の欲にはいろいろあるけれど、やはり食欲を断つのが一番つらいから、断食道場に入って食欲を断ってみました。

 すると自分の子どもの頃からのことがよみがえってくるようになったんです。産んでくれた親に感謝できるようになりました。また、社員に対していつも厳しいことを言っている割に、自分は何もやっていないなとか、反省が走馬灯のように巡ってくるようにもなりました。

 そして、「生まれてきたからには、世のため人のためになることをしなければ」と思い至るようになったのです。断食道場へは15年通い、そのあとはひなびた旅館に泊まって、自分で断食を続けました。

 ニトリは30年計画のビジョンを掲げています。ビジョンとは、ロマンを実現するための具体的な数値目標です。ビジョンがあるから仕事への意欲が湧いてくるのです。さらに、達成するまで諦めない執念と、いろんな事を知りたいという好奇心が湧いてきます。ロマンとビジョンがあれば、誰でも人生大成功できるんです。でも、それが分かっていながら、できないのも人間なんです。

会長と社員のコラボレーション

―― 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、多くの商業施設が営業を取りやめるなか、ニトリは営業を続けました。その理由はなんでしょうか。

 三密になるから店を閉めたほうがいいんじゃないかというお叱りの言葉をいただきました。しかしニトリは1日2000万人のお客様にご利用いただいており、99%のお客様は営業を続けてほしいというご意見でした。そこで、感染防止対策を十分とった上で、営業を続けるほうへかじを切りました。やはり日用品は手に取って確かめないと、自分が欲しいものかどうかわかりませんから「お店を開けるのもお客様のため」と判断したのです。

――『ニトリの働き方』を読んでほしいと思うのは、どんな人でしょうか。

 ニトリは創業52年になりますが、会長として、社員のために残せるものがまだないと思っていました。ですから私だけでなく、39人の社員の仕事への取り組みや、記憶に残る出来事を文章にして取り入れて、会長と社員のコラボレーションという形を取りました。まずは社員に読んでもらいたいです。そして、さまざまなビジネスで活躍したり、悩んだりする人びとのヒントになればうれしいですね。