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澤田智洋さん「ガチガチの世界をゆるめる」インタビュー 「ゆるスポーツ」推進、「36.5°C」の平熱でつづける脱力系社会運動

文:碇雪恵 写真:斉藤順子

社会に楽しく逆ギレしたい

――こんな話から始めて恐縮ですが、この本のおかげで広告業界に対して持っていた「イケイケ」みたいな固定観念がゆるまりました。誤解していてすみませんでした……。澤田さんは、業界のなかで異端の存在ですか?

澤田さん 相当変だと思いますよ。まわりから「あの人、広告作ればいいのに」って思われてます(笑)。それはおっしゃる通りなんだけど、広告クリエイターがクリエイティビティをフルに発揮できる領域は、広告領域だけじゃないっていうのを示したかったんですよね。この本によって、少し理解が進んだかなって手応えがあってうれしいです。

――ずっと自由にお仕事されてきたんですか?

 いや、僕も20代の頃は、どんどん仕事が降ってきて、いわば「クリエイティブ奴隷」のような状態でした。だけど、降ってくる仕事をこなすんじゃなくて、自分の人生にコンセプトを作って、自分のまわりにいる人たちのために仕事をしようと思い立って。それまでは矢印が「外へ、遠くへ」だったのを、「内へ、近くへ」にくるっと反転させたというか。そのあたりの変化は、息子が生まれつき障害を持っていたことが大きなきっかけでした。

 なので、いまは「手触り感」のあるアウトプットをしているつもりですね。「手触り感」っていうのは、「誰のためにこの仕事をしているのか」がバキバキに明快ということです。「A社の売上を120%にしましょう」も大事だけど、「生まれつき心臓の病気を持つ人が遊べるサッカーを作ろう」の方が、めちゃくちゃおもしろいし、燃える(笑)。

――そんなサッカーが作れるんですか?

 心臓に持病を持つ友人と一緒に、「500歩サッカー」という「ゆるスポーツ」を作りました。5対5で遊ぶサッカーで、その名の通りに試合中は500歩しか動けません。「500歩サッカーデバイス」という歩数計測器をつけてプレイして、残り歩数がゼロになったらその選手は退場するというルールで。あと、3秒以上止まって休めば1秒につき1ゲージ残り歩数が回復します。だからもともとサッカーの上手な人が必ずしも有利なわけではなくて、むしろあんまり動かない人が生き残れるスポーツなんです。

――これなら、身体能力が高い人以外でも楽しめますね!

 身体能力を問わず、みんな対等に楽しく試合ができます。「ゆるスポーツ」には、いわゆる「健常者」をいわゆる「障害者」にする目的があるんです。健常者が障害者を頭で理解するのは無理だと感じるからこそ、「ゆるスポーツ」をプレイすることで「障害者の擬似体験」ができればいいと思ってるんです。

 障害を持つ方と関わるようになったのは息子がきっかけですが、僕自身スポーツがずっと苦手で、いわば「スポーツ障害者」なんです。だけど、ある時「僕が悪いんじゃなくて、スポーツのルールがガチガチなのが悪いのでは?」と思って。スポーツをゆるめたおかげで自分が生きる世界を好きになりました(笑)。

 その「ゆるスポーツ」を作るクリエイター集団が「世界ゆるスポーツ協会」ですね。それが初めに言っていた「クリエイターがクリエイティビティをフルに発揮できる領域」を広げたひとつの例になるかなと思っています。

――「ゆるスポーツ」の誕生には、澤田さんご自身の実感も関係していたんですね。遊びながら他者を理解したり、自分の生きる世界を好きになれるなんて、「ゆるスポーツ」は素晴らしいですね。

 そうですね。笑いながら下剋上したいんです(笑)。社会に対して、楽しく逆ギレしたい。社会の抱える課題のなかには、明らかな悪が存在しているものもあって、そういうものに対してはみんなでホットになってぶつかった方が絶対いいと思うんです。

 だけど、福祉の世界が抱える課題は、正義と悪が明確に対立しているような話でもないですよね。そういった茫洋とした世界観のなかでは、クールなスタンスで、チャーミングでユーモラスなやり方をしていかないと、当事者が増えないんです。僕の課題は、みんなを当事者化することなので。

――みんなを当事者化する?

 本人も家族も障害者ではないけれど、僕たちの活動に共鳴して、気づいたらのめり込んで、結果的に障害のある友だちが増えてる、みたいな。それって福祉業界からすると、その人自身も「味方」という名の当事者になったってことになるんですよね。世界ゆるスポーツ協会でスポーツを作っているのはいわゆる健常者で、デザインや映像など何かしらの技術を持つ人たちです。自分の技術や創造性を何に使おうかと悶々としていたところに、「ゆるスポーツ」と出会って、最初は楽しくやりたいからってことで関わり始めるんだけど、気づけばみんなそれまで接点のなかった障害のある人と友だちになってるんですよね。

「普通」の領域を広げる

――この本は、作り方もひとひねりされていると聞きました。澤田さんが直接書かれているのではないとか。

澤田さん この本の経緯については、百万年書房の北尾さんお願いします(笑)。

北尾さん 以前、『しょぼい喫茶店の本』という本を刊行したのですが、そのしょぼい喫茶店の常連だった奥野(晋平)さんという方に協力していただきました。彼は精神的な疾患が原因で、会社を急に辞めざるを得なくなって、これからどうやって生きていこうかという悩みを抱えている作家志望の方で。

 澤田さんと本を出すことになって、じゃあどうやって作ろうかという時に、澤田さんはプロだから文章が上手だし、自分もそれなりに書籍の編集が上手いわけですよ(笑)。だから、普通に「まあ、いい本だよね」と評価される本は作れるのですが、そこにプラスアルファの魔法を加えたいと考えて、先の彼を思い出したんです。

 奥野さんの抱えている問題意識を澤田さんにぶつけてもらって、その対話をもとに奥野さんが構成した原稿をたたき台に、澤田さんが全面的にリライトし、僕が編集して、という過程を踏みました。対話の最後の方は、ほとんど人生相談に近くなっていましたね。

――奥野さんと話したからこそ引き出された、という部分はありますか?

澤田さん けっこうありますね。特に、「みんな普通で、みんな普通じゃない」という第8章。「自分は普通じゃないから会社を辞めざるを得なくて、今も苦しいんだ」ってことをおっしゃっていて、「いやいや、健常者は健常者で“普通呪縛”に囚われてますよ」って。

 障害者は壁の向こう側、つまり「普通」側に行こうとしている。一方、健常者は「普通」側にいるけど、「普通」がもう嫌だから、壁の向こうの「普通じゃない」側に行こうとしている。両者が壁を介して交錯しちゃってるから、結局交わらないって話になって。でもそれを壁と捉えずに、それぞれの「普通」の領域を広げれば世界がゆるまっていきますよね。これは奥野さんと話すなかで、自分でも気づいていった部分です。

――それぞれの持つ「普通」の定義をゆるめるということですよね。

 障害を持つ方は健常者が「普通」にできることができないわけですが、「みんなと同じことができない」を「みんなと同じことをしなくていい」と捉えて作った「ゆるスポーツ」があります。たとえば「ざっくり体操」というのがあって、これは「ざっくりとした指示を出す人」と「ざっくりとした指示に合わせて体を動かす人」で行います。「はい、むにゃむにゃむにゃ〜」「はい、ティラノサウルス〜」みたいなよくわからない指示に対して、みんなが思い思いの動きをするっていう、各人のクリエイティビティの見せどころみたいな(笑)。

 これはつまり、人と同じように振る舞わなくていいってことなんですよね。人と同じように振る舞わないといけないと言うことが、気負いにつながっていくので。気負いって、「気に負ける」って書くけど、まさに気負ってる時点で負けちゃう。でも今の社会はみんなが気負ってる状態ですよね。そこから、いかに元気を取り戻すかっていうのがポイントで。どうすれば元気になるかというと、何かをプラスするというより、字面の通り「元の気に戻す」といいんです。そのために何ができるかというと、単一唯一の正解を求めない世界を作ろうとか、自分と誰かを比べない世界を作ろうという発想になっていくんですよね。

「弱さ」で人とつながる

――普通の領域を広げることは素敵だと思う一方、どうしてもはみ出ることへの恐怖が出てしまいそうです。本のなかにも「弱さは人とつながる紐帯」という言葉があって惹かれましたが、弱さを出すことに恐れを感じる人も少なくないのではと思いました……。

 仕事面に関する弱さを出しすぎちゃうのは、特に若いうちなんかはむずかしいかもしれませんが、仕事と関係のない弱さをまず出してみるのがいいと思います。僕の場合、スポーツができないことは、仕事自体には支障がないんですよね。イコール、言う必要もない(笑)。だけど、口に出してみると「私も実はスポーツがちょっと……」って教えてくれる人が出てきて、仲間が見つかるんですよ。自分が率先して弱さを出すことによって人とつながれるんです。弱さを出すリスクよりもそのリターンの方が圧倒的に大きいので、言わないと損だろうって。

 この姿勢も、障害のある人たちから学んだものですね。彼らは隠しきれないわけです。脚がない。目が見えない。明らかに集中できない。だけど、その弱さをどうやって表現するかによって、相手の関与の仕方が全然変わってきます。僕が出会ってきた当事者のなかにも、弱さをすごく魅力的に語る人たちがいて。抱えている課題を彼らが笑いながら話すのを聞いて、「それ、なんか解決できないかな」ってモードになるというか。

――障害者の抱える課題というと、どうしてもシリアスに捉えてしまいがちですが、澤田さんのお話を伺っていると、澤田さんを含め、関わっている方々がすごくフラットに、冷静に、かつ楽しそうに活動している様子が目に浮かびます。

 50〜60年かけて、当事者を増やしながら活動していきたい場合は、ホットすぎるよりも、36.5°Cくらいで続けないと体が持たないよと思っていて。リラックスしてご機嫌でいる方が、人間のパフォーマンスは最大化されるという実感もありますし。いかに無理しないで、ナチュラルな状態を維持しながら、社会を一歩ずついい状態に変えていくかが鍵なんですよね。脱力系社会運動のススメです(笑)。

 この本も、大人の絵本みたいな見た目のゆるい感じで、「尖ってない、という尖り」を目指す僕に合っている(笑)。中身については、現存の価値基準から逸れたことをあえて積極的に実験しようとしている内容で、ある種の提案ですよね。今の人生に満足している人はスルーするだろうけど、何かしらの閉塞感を抱えている人にとっては、どこかしら引っ掛かってくれるんじゃないかと信じています。