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「紛争と弾圧」書評 特高警察を一人の「人間」から解剖

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2020年12月19日
戦争と弾圧 三・一五事件と特高課長・纐纈弥三の軌跡 著者:纐纈 厚 出版社:新日本出版社 ジャンル:伝記

ISBN: 9784406065139
発売⽇: 2020/10/30
サイズ: 20cm/335p

紛争と弾圧 3・15事件と特高課長・纐纈弥三の軌跡 [著]纐纈厚

 昭和戦前期、特高警察は国民弾圧の最前線の役を果たした。その第1弾が1928(昭和3)年の3・15事件、共産党員や同調者の大量逮捕である。警視庁特高課長の纐纈(こうけつ)彌三(弥三)らが指揮していた。
 同姓の著者は故郷もほぼ同じで縁があるようだが、纐纈の日記類を入手して、弾圧する側の「人間」を解剖した。ただし肝心の1927、28年の課長時代の日記は不在という。本書は纐纈の評伝ではないと断りつつも、戦後に政治家になり、紀元節復活に奔走する姿と重ね合わせて、「戦前の国体思想の復活こそが、弥三の宿願」という視点で書かれている。かつての思想弾圧と連動した危険な思想の持ち主とも説明する。
 近代日本の特高警察の誕生、思想弾圧の内幕、拷問などの暴力について幅広く目配りする。3・15事件は「日本の侵略戦争のもう一つの表現」という語を弾圧する側の人物を見る目とどう絡ませるか、その試みが本書の要諦(ようてい)である。