〈釣り鯛焼きは、釣りとおやつがいっしょに楽しめる、すぐれもの。鯛焼き大好き、釣り大好きという方に、おすすめです。折りたたみバケツに水を入れ、同封の釣りざおをつかって、鯛焼きをつりあげてください。もしかしたら、大物や、レアな鯛焼きがつれるかもしれません。グッドラック!〉(『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂 1』より)
2021年最初の「食いしんぼん」でご紹介するのは、シリーズ累計200万部を突破し、子どもにも大人気の『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』です。
商店街の大通りをそれた脇道の奥に、一軒の駄菓子屋「銭天堂」があります。店先にはちょっと変わったお菓子が色々と並んでいますが、それらを買えるのは、この店のおかみ・紅子さんが福引用の八角形の箱を回して出てきた、“その日の幸運のお宝”(「昭和42年の10円玉」など)を持っているお客さんだけ。どれも魅力的なお菓子ばかりですが、使い方・食べ方次第で幸運になるか不幸になるかはお客さん次第……という、ちょっと不思議なお話です。作者の廣嶋玲子さんにお話をうかがいました。
幸も不幸も、選ぶのはあなた次第
——まずは、「銭天堂」の名物おかみ・紅子さんというキャラクターの誕生秘話と、本作の舞台を駄菓子屋さんにした理由を教えてください。
私は本シリーズで毎回イラストを描いてくださっているイラストレーターのjyajyaさんの絵が大好きで、よくサイトを拝見していたのです。その中で、雰囲気のある横町や路地の絵を見つけて、「あ、こういう雰囲気好き。こういうところに不思議なお店とかありそう。なんのお店?」と考えた時に「魔法のようなお菓子を売っている駄菓子屋とかいいんじゃない?」と思いつき、さらに「そこの主人は大きな白い髪のおばさんがいい!」と、次々とアイディアがわいてきました。
その後「銭天堂」という店名も、「紅子」というキャラクターの姿も、一瞬で思いつきました。まさしくドミノ倒しのような勢いで、一気に舞台設定もキャラ設定もできてしまったわけです。
——毎回、面白くて不思議なお菓子が登場しますが、そのアイデアはどのようにわく
のですか?
まず、自分の欲を頭に浮かべます。どんなものがほしいか、自分にどんな悩みがあるか。次に、それらを解決してくれるお菓子(副作用も一緒に考えます)を思い浮かべるのです。そして最後に、そのお菓子の名前を考えます。お菓子と悩みを組み合わせ、くすりと笑えるような名前にしています。
——現在14作まで続いている「銭天堂」ですが、これまでに登場した中で、いちばんお好きな、または食べてみたいと思うお菓子を教えてください。
もしも私が「銭天堂」に行けたのなら、アイディアが無限にわいてくる「アイディアあんこ」(9巻収録)を望むと思います。それから、「釣り鯛焼き」(1巻収録)と、食欲をコントロールできる「コントロールケーキ」(10巻収録)が欲しいですね。「コントロールケーキ」があれば、自分の暴飲暴食をやめさせられるからです。
——私も、鯛焼きが釣り(食べ)放題の「釣り鯛焼き」は特に気になりました! ビニール製のバケツに水を入れて付属の釣りざおをたらすと、バケツの底には鯛焼きが泳いでいるなんて、なんとも魅力的ですよね。(*ただし、付属の釣りざお以外を使うと危険な場所へとつながってしまうので、ご注意を)
私は鯛焼きが大好物なんです。鯛焼きの魅力は、なんといってもその形ですね。どどーんと立派な魚が、なんとお菓子だというギャップがたまりません。かぶりつく時、すごく幸せを感じてしまいます。そんな鯛焼きを「たくさん食べたい」という願い、そして「それを自分で釣ることができたらいいのに」という望みから、この「釣り鯛焼き」は生まれました。
ちなみに、私がいちばん好きなのはカスタードクリーム入りなのですが、ある日、それを買って帰ったら、あんこ至上主義者の母に「わ、邪道な鯛焼きを買ってきた!」と言われました(笑)。
——「型ぬき人魚グミ」(1巻収録)で書かれている「だいたいにおいて、駄菓子屋というのはふしぎな魅力をもっているものだ」という一文が印象的でした。駄菓子屋さんの魅力とは、どんなものでしょうか。
駄菓子屋というのは、それ自体が不思議に満ちている異空間のような気がします。昔、私が通っていた学校の近くにあった駄菓子屋も、入るたびにワクワクしました。奇妙奇天烈なものが当たり前のように置いてあり、子供が遠慮なく入れるお店でもある。子供が自分のおこづかいで、親の目を気にせずに欲しいものを買えるお店というのは、案外少ないような気がしますし、そこがまた魅力の一つだと思います。
——廣嶋さんの思い出のお菓子はどんなものですか?
私が好きだったのは、薄いミルクせんべいに水飴をはさんだお菓子です。ぱりぱりとしたミルクせんべいに、ねっとりと甘い水飴がなんとも絶妙で、100枚くらい食べたいと本気で思っていました。でもある日、せっかくだから他のお菓子も食べてみようと、ウィスキーボンボンを買ってみたんです。ビンの形をしているチョコがかわいかったのですが、食べてみたら中身のウィスキーが強烈で、あまり好みの味ではありませんでした。手持ちのお金もなくなってしまい、「これだったらミルクせんべいを買えばよかった」と、がっかりした思い出があります。
——「銭天堂」で売っているお菓子は、食べて幸せになるのも不幸になるのもお客様次第。中には食べ方を間違えると、背すじが凍るような怖い思いをするお菓子もありますよね。そんな「銭天堂」のお菓子を通して、廣嶋さんが本作で伝えたいことを教えてください。
「銭天堂」のおかみ、紅子が言っているように、「幸運は不幸に、不幸は幸運になるかもしれない」ということですね。「せっかく良い物を手に入れたけれど、しくじってしまった。あぁ、なんてもったいないことを! あぁ、なんて自分は不幸なんだ!」と、激しく後悔するか。それとも「しくじってしまったけれど、これもまた経験の一つ。次は気をつけよう」と、前向きに考えるのか。そんな風に、考え方一つでずいぶん気持ちは変わってくると思います。
「幸せも不幸も、そういうことは自分で選べるんだよ」ということを、本作で伝えたいと思っています。ただ、まずはこの物語を楽しんでもらいたいですね。それが、私がいちばん願っていることです。