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辻村深月さん、全国の高校生とオンライン読書会 今だからこそ、感じたことを文章に

オンライン読書会で、高校生の質問に答える辻村深月さん=文芸春秋提供

 作家の辻村深月さんが、オンライン読書会で9日、自作について高校生と語り合った。直木賞の候補作から高校生たちが選考する「高校生直木賞」の実行委員会が開いたもので、全国の高校生70人以上が参加した。課題図書は「オール読物」1月号に掲載された辻村さんの中編「2020年のロマンス詐欺」。話題はコロナ禍での執筆から創作論にまで及び、2時間を超える盛り上がりを見せた。

 「2020年のロマンス詐欺」は、山形県から上京してコロナ禍に遭遇した大学1年の男子学生が主人公だ。授業がすべて休講になり、友だちもできず孤立する中、地元の友だちに勧められたある「バイト」を始める。SNSで見知らぬ相手にメッセージを送り、やりとりを続けようとするのだが……。

 かつて直木賞を受賞した短編集『鍵のない夢を見る』で、殺人や放火、誘拐などの犯罪を扱ったが、詐欺は取りこぼしていた。「詐欺はその時々の社会状況を反映している犯罪だと思う。コロナを利用した犯罪の報道を見ると、人が人を必要としている気持ちにつけこんでいるようだった。2020年ならではの詐欺を書こうと思った」

 参加者からの質問は尽きず、文芸部員など実作する立場からの質問も多かった。ある生徒は、部屋にこもっていた主人公が外に出た際の、陽光に浮かび上がった埃(ほこり)がきれいに見えた、という描写に着目した。「自分で書いてみると、情景描写が難しい。気をつけていることはありますか?」

 辻村さんの答えは、「無理に描写しようとしなくて良い」。意外にも、「描写が上手にできるようになったと思うのはここ数年。今回も風景描写は多くないんです」。主人公は陽光を久しぶりに見る。だからその中で舞い散る埃を見ただけで感動する。「人間、普段は並木道がどう広がっているかは印象に残っていない。ふいに景色が心に入ってくる時は、自分の感情と連動している。登場人物の目線になって、心理描写に連動して要所要所に入れると、情景が際立ってきます」

 作家になろうと思ったきっかけは?という問いには、「小説を書きたいという気持ちが先だった」。中学生のころから友人に自作を読んでもらっていた。「友だちに読んでもらうのがオススメ。匿名ではないので、『つまらない』と言う相手にも勇気がいる」と話す。高校生のころ、後のデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』のもととなる原稿を読んでもらい、「続きが読みたい」と言われた時に、「プロになれるかもしれない」と思ったという。

 辻村さんは最後、「みんな、この画面ごしに様々な事情があると思う。コロナ下の高校生活を、大人は誰も経験していない。ぜひこういう時だからこそ、感じたことを覚えていて欲しい。文章にすると、それは自分の心に残り続ける」としめくくった。(興野優平)=朝日新聞2021年1月30日掲載