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裏方として生きた本の世界の人々 「片隅の人たち」など堀部篤史さんが薦める新刊文庫3冊

堀部篤史が薦める文庫この新刊!

  1. 『片隅の人たち』 常盤新平著 中公文庫 946円
  2. 『神保町「ガロ編集室」界隈(かいわい)』 高野慎三著 ちくま文庫 990円
  3. 『文字渦(もじか)』円城塔著 新潮文庫 781円

 (1)タイトルの「片隅の人」とは、著者自身をはじめとする翻訳家や、編集者、古書店を営む人たちのこと。出版社に印税の前金を無心する翻訳家、米軍基地からペーパーバックや洋雑誌をいち早く仕入れてくる古本屋のおやじ、本業の傍ら作家を目指す編集者。高度経済成長期を目前にした著者自身の駆け出し時代を回想、現実とフィクションを織り交ぜながら、探偵小説やミステリという、純文学の傍流と捉えられがちなジャンルの周辺で、裏方として慎(つつ)ましく生きた人々を描く。書物好きにはしみじみさせられる一冊。

 (2)主流とされる少年漫画のオルタナティブとして、実験的で作家性の強い作品を数多く世に送り出した伝説の漫画雑誌「ガロ」。その黎明(れいめい)期に編集部に在籍した著者がつづる、漫画家たちとの思い出。個性的なキャラクターが数多く登場するが、神保町界隈(かいわい)の町の景色も主役と同じ扱いで描写される。編集室の一部のようにして存在した数多くの喫茶店や、今や数少なくなった銅板建築に、路上でのパフォーマンス。SNSなどなかった時代、作家や編集者たちが交わる町の空気が雑誌に色濃く反映されていた時代の記録。

 (3)読者は小説や物語を読む以前に、文字を眺め、漢字を読み解く。本書は実験精神とユーモアが共存する、文字そのものについての短編集。あらすじを要約することも、朗読で理解することも出来ない。書評子としての禁じ手「とにかく読んでみてほしい」も、本書にだけは許されるはず。=朝日新聞2021年3月13日掲載

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