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砂川文次さん「小隊」インタビュー 始まった地上戦、組織の不条理の中で

 北海道にロシア軍が上陸し、自衛隊との地上戦が始まる。そんな衝撃的な設定で幕を開ける『小隊』(文芸春秋)で芥川賞候補となった砂川文次(すなかわぶんじ)さんは、元自衛官の覆面作家だ。突如として非日常へと放り込まれた組織の不条理を、一人の自衛官の視線で描く。

 ロシア軍とのにらみ合いが長引くなか、自衛隊は演習を繰り返す。小隊を率いる安達はしかし、迫り来る戦闘に現実味を感じられない。戦端が開かれても、仲間の戦死報告に〈戦死。そうか、戦って死んだら、戦死になるんだな〉と他人事(ひとごと)のよう。だが、そんな内心とは裏腹に、安達は組織のなかの義務として目の前の戦闘へと没入していく。

 砂川さんは1990年生まれ。現役の自衛官だった2013年に小説を書き始め、訓練で100キロ行軍をする部隊を描く「市街戦」で16年に文学界新人賞を受賞しデビューした。以来、自衛隊での自らの経験をもとに作品を発表。芥川賞の候補入りは2度目だった。

 戦争を知らない世代でありながら、繰り返し戦争を書くのはなぜなのか。

 「戦争というと、日本ではどうしても第2次大戦が念頭に置かれる。けれど、『戦争』は8月15日以降もずっと続いていて、いまこの瞬間にも起きている」

 それは国家対国家に限らない。差別意識や経済的な信用リスクも、見えない脅威だ。「そこに何らかのかたちで立ち向かっていかなきゃいけない。決意とか矜持(きょうじ)とかじゃなくて、それこそ義務感に近い」。現在は都内の区役所に勤めながら執筆を続けている。(山崎聡)=朝日新聞2021年3月17日掲載