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上野千鶴子『在宅ひとり死のススメ』 不安から勇気へのノウハウ

 東京で一人暮らしをする私の家族(親と兄弟)は、全員北海道に住んでいる。コロナ禍で、「何かあっても遠方の家族には頼れないんだ」と思った時、「老後」の不安がリアルなものとして押し寄せてきた。今は40代。このまま老いて、子も配偶者も金もない高齢者になった時、ひどい目に遭わされたり安楽死させられたりするのではないか。老後の不安はそれに尽きる。

 本書は、そんな「おひとりさま」第一人者の上野千鶴子氏による「家で一人で死ぬノウハウ」だ。

 まず励まされるのは、「独居高齢者の生活満足度のほうが同居高齢者より高い」というデータ。さらに、「子無しおひとりさまは満足度がもっとも高く、悩み度が低く、寂しさ率が低く、不安率も低い」という調査結果も紹介されると俄然(がぜん)勇気が湧いてくる。

 そんな本書の第3章のタイトルは「施設はもういらない!」。高齢者イコール施設入所という思い込みを鮮やかに否定する著者は、施設経営者らに尋ねる。「あなたが要介護になったら、ご自分が経営していらっしゃるこの施設でお世話を受けたいと思いますか?」。一人をのぞいて、その答えは「ぎりぎりまで家にいたい」。持ち家もあるのだから、わざわざ賃料を払って施設に入るのではなく、そのお金を自費負担サービスに充てればいいという著者の主張に納得だ。

 それでは、在宅で死ぬにはいくらかかるのか。80代の方の自己負担額は死の直前3カ月で月額7万~8万円。自費での夜間ヘルパー代を入れての額だ。看取(みと)りのコストは病院が最も高く、次に施設。在宅が一番安いというから驚く。「家で死ぬ」なんて、よほどのお金持ちか孤立の果ての孤独死くらいだと思ってたけど、実は違うのだ。

 徹底して「自分はどうしたいか」という目線から書かれた終末期のノウハウ。最期は単身世帯という人も多いからこそ、重要な一冊だ。=朝日新聞2021年4月17日掲載

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 文春新書・880円=4刷14万8千部。1月刊。幅広い年代に読まれている。「老後の不安が解消したとの声が多い」と担当編集者。