たった一人の特別な女の子に出会うことを夢見ていた。彼女と二人ならなんだってできるし、どこにだって行ける。けれど、いつまで経ってもそんな女の子はあらわれず、蜜月を過ごしたはずの相手ともたびたび物別れに終わってしまった。人とうまく関わることができない。たったそれだけで、自分にはなにか大きな欠落があるのではないかと疑うには十分だった。
本書は子持ちの主婦・小夜子(さよこ)と未婚の旅行会社社長・葵(あおい)、それぞれ立場のちがう二人の女性の関わりを描いた小説だ。近年、シスターフッドという言葉の浸透とともに女性同士の連帯や絆を描いた作品が増えているが、刊行当時はまだめずらしかった。「女の敵は女」だの「女の友情は儚(はかな)い」だのと、ことあるごとに分断を煽(あお)られてきた女性の多くが、本書の登場にどれだけ励まされ、心を慰められたことだろう。
とはいえ、本書はまばゆいばかりのシスターフッドの物語というわけではない。女の友情を困難にしているものはなんなのか、たった一人の特別な女の子との蜜月と別れ、同じ女性だからわかりあえるなんて幻想でしかなく、むしろ同じ女性だからこそ起こる対立やわかりあえなさを正直につまびらかにした上で、それでもだれかを求めてやまない女性たちの心の動きを描く。
今回読み返してみて、保育園の送迎ですれちがうママたちや職場の移動車で隣り合った女性たちとの、ほんの一瞬の連帯が印象に残った。一生を添い遂げられるような唯一無二の親友に出会うことはできなくても、日々そうしたちいさなつながりを得ることならできる。それで十分じゃないかと。女の友情に憧れながらも、「親友」という言葉に傷つけられてきた私のような読者に手に取ってもらいたい。
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文春文庫・792円。07年10月刊、45刷64万6千部。単行本は04年11月刊で直木賞、累計92万3千部。担当者は「読者を一番心が柔らかかったころに瞬時に戻してくれる。疎遠になった友人を思い出した、落涙したという声も多い」。=朝日新聞2025年6月28日掲載
