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近所の季節感 柴崎友香

 刺身が好きで、夜、スーパーに買いに行く。近所のスーパーは、だいたい午後7時半を過ぎると刺身に2割引のシールが貼られる。生活時間が遅めで晩ごはんは8時ごろなのでちょうどいいし、好きな白身魚系を買えるとうれしい。

 ところが、めずらしくお昼前に行ってみると(普段は夕方までに外へ出ることはめったにない)、売り場にはいろんな種類のパックが並び、しかも全部すごくつやつやしているではないか! 売れ残りばかりのすかすかな光景に慣れきっていたので、その新鮮でおいしそうな色に、普段買う2割引との違いを思い知ったのだった。

 魚だけでなく、野菜も果物も、早い時間に行くと種類も量もたくさんあって、当然、みずみずしい。色とりどりのその場に立つと、気持ちが浮き立つ。

 少し遠いのだけど、生鮮食品の品揃(ぞろ)えがとても評判のスーパーがある。気候もよくなったことだし、散歩がてら行ってみた。

 入り口前に黄色とオレンジの球形が積んであって、かわいい色の組み合わせに気分が上がる。二、三年前から柑橘(かんきつ)にはまり、冬から初夏にかけて次々現れる「せとか」「はるみ」などを順に試してみるのが楽しみだ。三月まではポンカンばかり食べていて、このあいだは清見タンゴールと河内晩柑を買った。

 店内にはブロッコリーやキャベツやきゅうりの緑が溢(あふ)れている。一年中手に入るようになった野菜も多いが、旬のものは大きさや色の濃さが全然違う。ちょっと珍しい野菜も並んでいたりして、食のワンダーランドや! と脳内でグルメリポーターみたいな声がこだまする。なにを買おうか迷う時間がまた楽しい。

 あまり出かけられない日々、街の中で季節を感じられるのが、わたしにとってはスーパーの店頭なのだ。ひたすら家で仕事をして、今日が何曜日かもわからなくなっているときも、そこに行けば季節が移り変わっていることを教えてもらえる。=朝日新聞2021年4月28日掲載