1. HOME
  2. インタビュー
  3. えほん新定番
  4. 小宮輝之さん監修の絵本「ほんとのおおきさ動物園」 実物大写真で、まつげまで観察

小宮輝之さん監修の絵本「ほんとのおおきさ動物園」 実物大写真で、まつげまで観察

文:坂田未希子

毛の生え方や目つき、唇やまつげまで

――本を開くと、ページいっぱいに広がるシマウマの顔。つぶらな瞳、口のまわりに生えたヒゲ、黒と白の短い毛……。目の前に本物の動物がいるような感動を味わえる『ほんとのおおきさ動物園』(学研プラス)は、パンダ、シマウマ、キリン、ゾウなど、子どもたちに人気の動物たちが実物大で登場する写真絵本。大きなものは顔の一部分しか入らないため、改めてその大きさに圧倒される。監修を務めたのは、元上野動物園園長の小宮輝之さん。実物大にすることで初めて気づいたこともあるという。

 動物園には柵や檻があったり、遠目にしか見えなかったりして、動物を近くで見ることはできません。図鑑も縮小されてしまうので、細かいところまで観察できない。こうして実物大にしてみると、毛の生え方や目つき、唇やまつげの様子まで見ることができる。動物の近くにいる飼育員でも、相手は動いているからここまで見ることはできないので、細部までじっくり観察できてうれしいですね。毛並みの方向まで知ることができました。

 登場する動物は、誰でも知っていて、子どもたちに人気があるものを考えました。ライオンがいないのは、アップにしちゃうと黄土色一色になってしまうから(本シリーズの2冊目に登場)。縞があって絵になるトラを選んだら、とてもいい写真になりました。大きい動物は目を中心に顔の一部だけ、小さい動物は全身載せています。キリンの舌はこんなに長いんだとか、ゾウは子どもでもこれしか入らないんだとか、大きさを実感できると思います。

『ほんとのおおきさ動物園』(学研プラス)より

――愛嬌のあるゴリラの目、ガサガサしたサイの角、やわらかそうなラクダの毛など、動物たちの目つきや表情、毛や皮膚の質感まで感じられ、動物園で見るのとは違った迫力がある。

 パンダは、よく見ると猛獣の目をしているのね。普段は隈取りで隠しているだけで、けっこう怖い顔をしてるのがわかっちゃう。ラクダは、マンガや絵だとパッチリまつ毛で描かれているけど、写真に撮ってみると、それほどすごくはないなとか。虎の舌はおろし金みたいになっているのがよくわかります。この舌で肉を削ぎとる。猫も同じ。猫に舐められるとザラザラしているでしょ。犬の舌がザラザラしてないのは、骨を砕いて丸呑みするから。削ぎ落とす必要がないんです。そういう違いもこの本でよくわかります。

――撮影場所は上野動物園をはじめ、群馬サファリパーク、神戸市立王子動物園などさまざま。モデルとなった動物の名前も書かれている。

 写真は、動物それぞれ、カメラマンが一番近づきやすいところで撮影しました。ラクダは群馬サファリパーク。ラクダに乗れるところなので、ものすごく近づいて撮れる。どこで撮影するといいか、僕もアイデアを出しました。レッサーパンダなんかたくさんいるでしょ。顔立ちが整ってるのと、そうでもないのがいるので、「あそこの子はきれいだよ」とかね。

『ほんとのおおきさ動物園』(学研プラス)より

――1作目が話題となり、続編の『もっと!ほんとのおおきさ動物園』『ほんとのおおきさ水族館』など、9作続くシリーズとなった。

 こういう絵本はあまりないみたいで、日本だけでなく海外でも読まれています(英語をはじめ、9つの言語で翻訳)。世界の子どもたちが読んでくれているのはうれしいですね。『ほんとのおおきさ・てがたあしがた図鑑』では、僕が集めた動物たちの手形と足型を載せました。ゾウの足型は本にとても入りきらなくて、ポスターのようにして付録にしています。ゾウの大きさをまた違った形で感じてもらえると思います。

世界中どの園にもいない動物を求めて

――自称、動物オタクという小宮さん。幼い頃から上野動物園に通っていたという。

 子供の頃から生き物を飼うのが好きで、アリとかミミズとか、そこらへんにいるものを採集して飼っていました。犬や猫、鳥もいたし、魚の水槽もたくさんありました。上野動物園も近かったので、自転車で通っていました。毎月開催される動物愛好会の講演会で、飼育係の話や南極に行って来た人の話なんかを聴けるのが楽しみでした。

 (1964年の)東京オリンピックの開会式の日も講演会があって、自衛隊の飛行機が上空に五輪マークを描くのを上野動物園で見ました。当時の園長の林寿郎さんが「こんな日に動物園に来るなんて、みなさんよっぽど動物が好きなんですね」ってあいさつしたのを覚えています。

写真は本人提供

――高校生になると、多摩動物公園で開催されていた子ども向けサマースクールでアルバイトをし、大学卒業後は同園の飼育係に。

 最初に担当したのが日本の動物や家畜だったのが、すごくいい経験になりました。ゾウやチンパンジー、ゴリラなどの飼育は命に関わるので、班長さんの指示通り、決まったことしかできないけど、僕は好きなようにできました。世界的に難しいと言われているノウサギの展示に挑戦したり、クマ用のビスケットを開発したりもしました。

 当時、クマには野菜や果物を食べさせていたけど、繁殖力が弱かった。クマは雑食獣だから、自然界ではいろんなものを食べているはずだと思って、いろんな材料で人工飼料を作って食べさせたら、繁殖力が上がったんです。今では日本中の動物園で使っています。動物を飼育するには、動物のことだけでなく、その動物の生活環境や自然環境も知る必要がありますね。

 でも、飼育員になるには、動物だけでなく人間が好きじゃないとダメです。自分一人で楽しみたいのであれば、ペットとして飼えばいい。例えば仕事が休みの日は仲間に世話をお願いしなくちゃいけない。その時に、その人にしか飼えないという飼い方をしているのは失格ですね。

――動物オタクとして、一種類でも多くの動物を見たいという小宮さん。

 定年で仕事を辞めてからは、世界中のどこの動物園にもいない、そこに行かないと見られないものを見に出かけています。ガラパゴス諸島にガラパゴスペンギンを見に行ったり、アラビアにしかいないアラビアタールというヤギみたいな動物を見に行ったり。剥製で見たことがあっても、やっぱり実物がいい。チベットカモシカのチルーとか、ニューギニアの極楽鳥とか、まだまだ見たいものはたくさんあるけど、コロナ禍で行かれないので、本や写真で我慢しています。

 今、動物園に行けない子どもたちも、この本でたくさん観察してもらえるといいですね。大きさに驚いたり、こんな風に毛が生えてるんだとか気づいてもらって、次は本物を動物園に見に行きたいと思ってくれたらうれしいです。動物園も展示の仕方や動物たちとの触れ合いについて考え直すいい機会だと思います。この時代のことをちゃんと見据えて、次の仕事をすればいい。新しい動物園の形ができることも期待しています。