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「孤独を解消する」分身ロボット開発者・吉藤オリィさんインタビュー 世の中はまだ、何も完成されていないから

吉藤オリィさん

AIが奪えない人の力とは

——6月21日に、外出困難な人がOriHimeを遠隔操作して接客を行う「分身ロボットカフェDAWN ver.β」常設実験店が東京・日本橋にオープンしました。吉藤さんが開発した分身ロボット「OriHime」とはどんなものでしょうか?

 私は人々の「孤独を解消する」ことをミッションに掲げ、分身ロボットのOriHimeを使って研究に取り組んでいます。OriHimeはカメラやマイク、スピーカーが搭載されていて、寝たきりの人や引きこもりの人が遠隔操作して外の世界とコミュニケーションができるロボット。AIではなく人の力で動かすロボットであることにこだわっていて、「人とロボット」ではなく「人と人」をつなぐロボットだと考えています。

 「分身ロボットカフェDAWN ver.β」はOriHimeを一緒に開発してきた私の秘書・番田雄太との雑談がアイデアの元になりました。番田は4歳で頸髄損傷になり20年以上寝たきりだったのですが、顎を使ってパソコンを操作し、私の秘書として仕事をしたり、自身も全国で講演会を行ったりしていました。

 ある時、私が彼に「秘書なんだからコーヒーくらい淹れてくれよ」と冗談を言ったことがありました。「なら、それができる身体を作ってくれよ」と返されたことから、接客をしたり物を運んだりできる大型の分身ロボット「OriHime-D」を作る構想がスタート。このロボットがあれば移動や外出が困難でこれまで就労を諦めていた人が働くこともできるかもしれないと、「分身ロボットカフェ」のアイデアにもつながっていきました。

 プロジェクトを進めている途中の2017年に、番田は28歳の若さでこの世を去りました。ショックで一度は開発の手が止まってしまったこともありましたが、再び奮起してなんとかプロジェクトを実現させました。2018年から数回期間限定でカフェをオープンして、ようやく常設店がオープンです。ここまで来れて本当によかったと感じています。

——このカフェをどんな場所にしていきたいですか。

 提供されるもののクオリティは変わらないんだけど、人との関係性があるから行くお店って誰しもありますよね。テクノロジーの発達で技術やサービスは機械が代替していくけれど、「関係性」はAIが最後まで奪えない人の力。それはスナック(軽食バー)が象徴的だと思うので、私はこれを「スナックテック(Snack-Tech)」と呼んでいます。

 「DAWN」にもそんなスナックテックの要素がありますね。OriHimeなどのロボットを使いながら遠隔地のスタッフと会話ができたり、もともとバリスタとして働いていたけど現在は店に立つのが難しい人が、遠隔操作してコーヒーを淹れてくれたり。そこには大きな価値があるし、きっと本当に多くの人の孤独を解消できるはず。この場を維持し続けることは挑戦だと感じています。

——働く人にとってもやりがいになりそうです。

 そうですね。みんな働き始めると変わっていきます。番田もそうだったけど、何か役割があることって、役割がないままそこにいるよりもずっと楽なんですよ。役割が与えられて行動すれば、役に立てた喜びが生まれ、そのことに勇気付けられて自然と明るくなっていくんです。

 これは私が不登校だった時に感じたことなのですが、何もできない状態の人が関係性を維持するのってすごく難しいです。学校に行けない僕は両親が何かしてくれるたび、最初は「ありがとう」と言っていたけど、だんだん申し訳なくなってきて「すみません」「申し訳ありません」と気持ちが変化していきました。そして、最後は「もう放っておいてください」になってしまった。「ありがとう」って対等な関係だから言える言葉で、一方的に言い続けるのはけっこうきついんですよね。

 身体が動かない人って「何もしないで寝ていたらいいよ。手伝った時にありがとうと言ってくれればそれで十分」みたいに言われがちです。でも、対等な関係を維持するには何かしてもらうだけじゃなくて、こちらからも何かをできることが大切だと思います。「DAWN」は、身体が動かない方がそうして対等な関係を構築しながら生きていける場所になればと考えています。

偶発的な会話から生まれるもの

——現在はZoomなどのウェブ会議ツールを使って離れた場所からでもコミュニケーションができますが、吉藤さんはOriHimeという分身ロボットがその場にいることを重視していますよね。それはなぜでしょう?

 私は病気がきっかけで休んだことで学校に行きづらくなってしまい、小学5年から中学2年生まで不登校でした。その後は学校に通うようになったのですが、そこでは色んな知識を学べただけでなく、様々な人との出会いがあったことが良かったと感じています。

 学校は知識を学ぶための場所ですが、私は休み時間のコミュニケーションが重要だと考えています。「必要の中の不必要な時間」と呼んでいるのですが、休み時間のコミュニケーションは、そこにいるからこそ生じるものですよね。その偶発的な会話から何かが生まれることが多くあるのですが、Zoomをつなげて授業を聞くだけで同じ体験ができるのかというと、おそらく難しいでしょう。

 私自身がそうした「出会い」によって形作られてきたし、「必要の中の不必要な時間」を重ねてできあがった関係性がたくさんあります。その中で「では、身体を動かせない人はどうするのか」と考え、OriHimeが生まれた。だから、身体をその場に運ぶことの重要性を大切にしたいのだと思います。

いつでも正しいものはない

——5月に出版した『ミライの武器』は、吉藤さんが10代に向けて行った講演が元になっています。講演はどんな内容だったのでしょう?

 講演では、「ものづくりが好きな子どもたちに、何か役に立つ話を」という依頼を受け、不登校だった私自身の経験やOriHimeができるまでの道のりをお話ししました。子どもたちがすごく興味を持ってくれて、講演後は「ロボットと人はどう違うの?」「やりたいことが見つからないけど、どういう風に探せばいいか」と、質問が止まらなかったことを覚えています。

——『ミライの武器』ではテクノロジーがめまぐるしく発達していく現代で、これからの時代を自分らしく生きていく方法を解説しています。「違和感があった時は“仕方ない”ではなく、“もっと楽にできないか”“もっと面白くできないか”考えてみよう」や、「ダメだと思ったらさっさと逃げる選択肢を持つ」など、根性論ではなく自分の感じ方を大切にする言葉が並んでいるのが印象的でした。

 特に意識していたわけではなくて、そういうものだと思っていましたね。「こうあるべき」という言葉はあまり使いたくなくて、「いつでも正しいものはない」という前提で話をしています。本にも書きましたが、社会はどんどん進歩していて、そのスピードは年々加速している。数年後には今の常識がまったく通用しなくなっているかもしれないですから。

 根性論も、それで解決できるのであれば良いと思います。ただ、再現性のないものまで根性でなんとかしようとすることには違和感を覚えますね。励ますために「俺ができたんだからお前もできるよ」と声をかけるのはよくても、「誰でもできるはずだ」というメッセージになるとギャップが生まれてくるというか。

 一方で、頑張りたい時には頑張れる選択肢があったほうがいいとも思います。好きで頑張ったり、面白がりながら我慢したりすることもありますしね。たとえば、大好きなコーラを半年間飲まなかったらどうなるかな、と思って我慢してみるとか。でも、これは趣味でやっているからいいのであって、人に強制されたら嫌じゃないですか。

世の中はまだ完成されていない

——根性論でどうにもならない問題を解消しながら、頑張りたい時は頑張れる環境を作る。その二つは、OriHimeをはじめとする吉藤さんの研究ともつながりますね。

 そうですね。今はいろんなことが便利になっていますが、人は便利すぎる環境にいると、今度は頑張るためのハードルを求めるようになっていくんですよ。働き続けていると休みたくなるけど、休んでいると学校や仕事に行きたくなるみたいに。便利なものを使うこととがむしゃらに頑張ること、どっちが正しいかは時と場合によるので、選択できることが重要です。そして、テクノロジーはその選択肢を増やしていけるものだと思っています。

 『ミライの武器』では、その選択肢を増やす鍵は、自分なりのコンプレックスとか、自分にしか見えていない課題をどう解決できるか考えることにあると書いています。違和感に気付いて、解決法を試してみること。それを発信して、人と共有する力も重要ですね。

——「発信」については、本の中でも1章を使って解説していました。

 ものづくりをする人は、良いものは作れても発信が苦手ということが多いです。でも、情報があふれている中で選択肢に入るためには、やっぱり知ってもらうことが必要になりますから。

 「世の中はなにも完成していない」と気づくのに、私は時間がかかりました。高校3年生くらいまでは世の中が完璧だと思っていたし、自分には何もできない、むしろ余計なことはしないほうがいいという感覚さえありました。

 でも、ロボットを作る中で多くの人から話を聞いて、世の中って何も完成されていないし、突っ込みどころがいくらでもあるとわかりました。しかもその突っ込みどころに対する完全な正解があるわけでもありません。その中で自分の役割はいくらでも作っていけると思い、「孤独を解消する」というミッションを掲げました。

 重要なのはできないことがあった時、それにどう向き合うかです。人はできることにはさほど意識を向けず、できないことほど悩み、考えます。だからできないことは悪いことではなくて、そこから新たな価値が生まれるかもしれない。これからを生きる子どもたちにはそれをすごく大事にしてほしいし、強みに変えていく方法を少しずつ身につけていってほしいですね。