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「彼らはどこにいるのか」書評 未知との遭遇 いつかはきっと

評者: 宮地ゆう / 朝⽇新聞掲載:2021年07月03日
彼らはどこにいるのか 地球外知的生命をめぐる最新科学 著者:キース・クーパー 出版社:河出書房新社 ジャンル:天文・宇宙科学

ISBN: 9784309254234
発売⽇: 2021/04/27
サイズ: 20cm/368,15p

「彼らはどこにいるのか」 [著]キース・クーパー

 数年前、米カリフォルニア州にある「地球外知的生命体探査(SETI)」の研究所を取材に訪れたことがある。「宇宙人探し」は、欧米を中心に有名大の研究者たちが取り組んできた研究分野なのだが、SFの話だと一蹴してしまう人も少なくない。そんな人に、ぜひ本書を読んでもらいたい。世界ではいかに本格的に、そして真面目に、さまざまな角度から宇宙人の研究が行われているかを知って、驚くだろう。
 地球外からの電波を受信するSETIが始まったのは1960年。以来、各国の電波望遠鏡で宇宙からの電波を受信する活動が続いてきた。近年は米航空宇宙局(NASA)も関心を高め、投資家の多額の寄付や、クラウドファンディングなども盛んだという。
 とはいえ、SETIには根本的な疑問がつきまとう。そもそもいないものを探しているのでは? だが著者は、生命が人間とは異なるものである可能性を考えれば、地球と同じ条件がそろう必要はなく、何らかの命が生まれる環境は幅広くあると言う。
 地球外に生命がいるとしても、どんな知能があるかもわからない相手と、いかにコンタクトをとるのか。手がかりは、人類の歴史にある。研究は必然的に、人類の知性、文明間の接触によって起きる文化の伝播(でんぱ)といった分野へも向かう。著者がSETIを「われわれ自身の探索でもある」とするゆえんだ。
 近年の議論は、地球から電波を送る是非にも及んでいる。相手に悪意があれば地球が攻撃されかねないという反対派と、積極的にコンタクトすべきだという推進派。突拍子もない議論にも聞こえるが、宇宙開発会社「スペースX」のイーロン・マスク氏や著名な研究者たちが、この論争を繰り広げているという。
 世界には、ケタ外れのスケールで物事を考えている人たちがいる。本を閉じると、小さな悩みなどどこかに飛んでいった気がした。
    ◇
Keith Cooper 科学ジャーナリスト。英国の天文学専門誌の編集者。専門は天体物理学、宇宙生物学など。