フェミニズムを中心に、性的マイノリティーの問題や、さらにはネオリベラリズムまで幅広く社会問題を取り上げる雑誌「エトセトラ」。
連載陣も寄稿者もほぼ女性なので、昭和男の自分には、耳が痛い話ばかりなんじゃないかと、おそるおそる手に取った。ところが読んでみると、とても共感したのだった。線をいっぱい引きつつ全ページ読んでしまった。
それは、女だけでなく男も生きにくい時代になり、これまで男側からは見えなかった社会の不公平、不均衡が誰の目にも見えるようになってきたせいかもしれない。連日、傲慢(ごうまん)で醜悪な政治家たちの姿を見せつけられて、ほとほとうんざりしていることも関係がありそうだ。相手に対する想像力もなく、反省することもできない人たち。このうんざりを、女性はずっと社会や一部の男性に対して感じ続けていたのだ。女性から見れば、今頃わかったかという思いだろう。
この雑誌は編集長が毎号代わるのだが、最新号の編集長の日記に、子連れで出かけると、見知らぬ人がわざとぶつかってきたり、ベビーカーを叩(たた)かれたりする恐怖を感じるとあって驚いた。そんなことがあるのか。本誌には、こうした男の知らない現実がそこかしこにちりばめられている。
最新号の特集は「私たちは韓国ドラマで強くなれる」。私は韓国ドラマを見たことがなく、夢見がちな恋愛ドラマなんだろうぐらいに思っていた。だが韓流から続く今のブームはそういうものではないらしい。韓国ドラマの宣伝用のビジュアルは日本ではラブコメ風に作り替えられているという指摘に、ハッとした。つまり外見上そんなふうに思い込まされていたのだ。
実際にはラブコメが韓国ドラマの主流だったのは昔の話で、今は次々と多様な作品が生まれているという。それはジャンルが多様というだけでなく、女性の描き方、そして前提となる価値観さえもそうなのだ。
一方で日本は、ある部分、この二十年何も変わっていないかもしれないという指摘に萎(な)える。韓国ドラマの魅力は「アップデート」だと責任編集者の小山内園子さんも言っていて、日本社会のアップデートの遅さには、まさにうんざりしていたところだ。
いまだ夫婦別姓も認められない日本、男女平等ランキング世界120位。それはフェミニズムの問題というだけでなく、日本社会のアップデートできなさを示す指標でもある。その意味で、この雑誌が向き合っているのは、日本の未来そのものだと言える。=朝日新聞2021年7月7日掲載