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亀井俊介さん「英文学者 坪内逍遥」インタビュー 自分をさらけ出して自由に書く

亀井俊介さん=小黒冴夏撮影

 10年前、『英文学者 夏目漱石』を書きながら、しきりと気になったのが坪内逍遥(しょうよう)だった。

 「日本初の英文学者の一人で、早稲田では尊崇の対象のようですが、その学問は検討されていない。ヨソ者だから書けることもあるかと」

 逍遥は、自身と同じ岐阜生まれ。少年時代、名古屋の貸本屋で江戸時代の大衆読み物に熱中した。東京開成学校(のちの東京大)政治学科を卒業、東京専門学校(のちの早稲田大)で教える。文学科の中心となり「和漢洋三文学の調和」を唱えた。

 「知識や情報を集め、自分の知と情を結集して西洋の文明を学び、日本の文学の近代化を考えた。そして大変な教育者でした。様々な学生を性格に合わせて指導しています」

 その学問は文学の創造と結びついており、『小説神髄』を書き、シェークスピアの全戯曲を翻訳した。

 「俗っぽいが、生き生きと自由に書いている。僕は、小学校しか出ていない自分の父親に通じる文章を書きたい、と思ってきたので親近感があります。今の文学研究は学問的で批評理論などの理屈ばっかり。書いている人の心の動きが見えません。自分をさらけ出すことで研究状況の行き詰まりを打破できるかもしれない。その意味で『逍遥に還(かえ)れ』です」

 自身も、中学のとき逍遥訳のシェークスピア全集を読み、大学で英文学を専攻し、『近代文学におけるホイットマンの運命』など多くの著書を書き、源流に戻ってきた形だ。

 東京大を定年後、岐阜女子大で昨春まで教え、計57年の教員生活を終えた。最後の講義をまとめた『魂の声 英詩を楽しむ』(南雲堂)も刊行。コロナ禍の今、勉強会を五つオンラインで続けている。「英米文学や比較文学が発展するために、『これもおもしろいよ』って脇から言いたいな、と思ってるんですけどね」=朝日新聞2021年7月10日掲載