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「ヒロシマを暴いた男」書評 恐怖の実相伝えた報道の舞台裏

評者: 宮地ゆう / 朝⽇新聞掲載:2021年08月07日
ヒロシマを暴いた男 米国人ジャーナリスト、国家権力への挑戦 著者:レスリー・ブルーム 出版社:集英社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784087735154
発売⽇: 2021/07/15
サイズ: 19cm/284p

「ヒロシマを暴いた男」 [著]レスリー・M・ブルーム

 ジョン・ハーシー著『ヒロシマ』(法政大学出版局)は、原爆投下後の広島を描いたルポとして読み継がれてきた。1946年8月、米誌「ニューヨーカー」に丸ごと一冊を使って掲載されると大反響を呼び、刊行後は各国でベストセラーになった。本書はこの作品を巡るジャーナリストと国との闘いを描いたノンフィクションだ。当時の証言や史料を丹念に追い、75年前の出来事とは思えない臨場感で読者を引っ張っていく。
 ハーシーより前に被爆地に入った海外の記者は何人もいた。だが彼は、米政府は放射線などの人的被害の報道を矮小(わいしょう)化させているのではと疑念を持つ。そして他の記者より1年近く遅れて広島に入りながら、住民や医師の証言を集め、放射能被害の実態を暴くのだ。
 米国では原爆投下を肯定する世論が圧倒的な中で、日本の被害を描くのは相当の覚悟だった。実際、彼は米ソ両方から批判された。
 残る謎もある。編集部は掲載前、イチかバチかで記事を検閲に出す。提出先は原爆開発を担ったマンハッタン計画の責任者レズリー・グローヴス中将。ところが、彼はわずかな書き直しを命じただけだった。編集部はなぜあえてグローヴス中将を選び、彼は許可したのか。著者はいくつかの推論を提示している。
 本書と一緒に、ぜひ『ヒロシマ』を読んでほしい。この作品は、どこにでもあるのどかな夏の情景から始まる。登場する母親、医師、聖職者ら6人は、朝食をとり、職場へ向かう。読む人は「彼らは自分かもしれない」と思うだろう。そして次の瞬間、町は地獄絵図と化す。細部に及ぶ取材と計算された構成。世界中で読まれた理由が見えてくる。
 ハーシーは後年、こう語った。「一九四五年以来、世界を原子爆弾から安全に守ってきたのは広島で起きたことの記憶だった」
 被爆者がこの世を去りつつあるいま、著者はその記憶をよみがえらせる大切な役割を果たしている。
    ◇
Lesley M.M. Blume  米国のジャーナリスト、ノンフィクション作家、小説家。米各紙誌に寄稿。