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報道、防災、交流――ローカルメディアに注目、出版相次ぐ

 地域に根ざしたメディアやドキュメンタリーの役割を考える本の出版が続いている。マスメディアやネットの研究と比べれば一見地味な分野だが、多様な動きがある。防災や人口減少、歴史、報道の面から考える3冊の著者に話を聞いた。

 松本恭幸・武蔵大学教授らの共著『令和のローカルメディア』(あけび書房、7月刊)は地域に根ざした様々なメディアの事例研究だ。松本さんはケーブルテレビの加入増やコミュニティーFMの浸透を例に「地域のメディア環境はこの30年で一変した」と話す。東日本大震災以降は防災への貢献が注目され、今後は人口減少や高齢化への対応が求められる。「移住した当事者が自らの声をネット経由で地域外に発信する役割が期待される」とみる。

 『日本ローカル放送史』(青弓社、8月刊)は、樋口喜昭・東海大学特任教授が戦前戦後の歴史をまとめた労作だ。樋口さんは「民放ローカル局の開局は各地で歓迎され、県紙とともに都道府県単位の県民意識をつくってきた」という。理念と現実に隔たりはあるが、県単位の情報流通が地域性をはぐくみ戦後の地方自治と一体となって歩んできた、という視点は興味深い。

 小黒純・同志社大学教授らの共編著『テレビ・ドキュメンタリーの真髄(しん・ずい)』(藤原書店、7月刊)は、NHKや地方局の名だたる制作者16人の証言集だ。東海テレビの阿武野勝彦さんなどの肉声が伝えるのは、現場に人生をかける情熱と粘り強さだ。共編者の元毎日放送記者・西村秀樹さんは「どうしても伝えたいと思う者にだけ扉が開かれる瞬間がある」。小黒さんは「映画化も増え、観客が育っている。今後は映像表現の古典といえる名作の視聴や動画配信の環境が整ってほしい」と提言する。

 地域に根ざすメディア研究は、揺らぐ足元を問い直す動きと言えそうだ。=朝日新聞2021年9月1日掲載