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佐藤彰一さん「フランク史Ⅰ」インタビュー 王国の「根」、広がり探る

佐藤彰一さん=写真は本人提供

 ヨーロッパ中世初期、今のフランス・ドイツ・イタリア・オランダなどにまたがる「フランク王国」の、日本語による初の通史だ。

 「研究の中心に据えてきた時代なので、いつか書きたいと思っていました。これまでノート代わりに作ったカードは10万枚。古い時代に思考が入るには1日かかります。大学を離れ、会議などで時間が区切られなくなり、スムーズに進んでいます」

 全3巻のうち、Ⅰ巻は時代をどんどんさかのぼり、紀元前1200年ごろから書き始めた。ローマ帝国を経て、5世紀に初代王クローヴィスが生まれるまでの「前史」だ。ヘロドトスやゲルマン学の泰斗が論じた琥珀(こはく)交易などを手がかりに、通説とは異なる王国の起源を示した。

 「文字記録として残っているのが1本の木だとすると、土の中にある根はどこまで広がっているのか。普通なら見ないところまで網をかけてみよう、という発想です」

 山形県庄内生まれ。中央大法学部の学生だったとき、裁判を傍聴して「国家の起源」について考えるようになった。西洋史の早稲田大大学院に入り、フランスへ2年間留学。西洋の研究動向の中で学問を始めた。

 再び渡仏した1984年、修道院が農民から穀物を徴収した7世紀の「会計文書」と出会う。その断片を眺めていると「本気で研究するのはお前しかいない」と訴えてくるものがあり、名古屋大教授時代に『修道院と農民』としてまとめた。日・仏・英語で論文を書き、コレージュ・ド・フランスで招聘(しょうへい)講義を行い、日・仏両国の学士院会員に選ばれた。

 「人間の知性の中で一番重要なのは、判断力だと思います。それを養い、与えてくれるのが歴史です。過去の人間の生き方や、大事にしたものを多く知ることは、自分を客観化するのに役立つのでは」(文・石田祐樹 写真は本人提供)=朝日新聞2021年9月11日掲載