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朝倉宏景さんの頭のなかで繰り返し流れる「いとおしい人のために」

「いとおしい人のために」を収録した『ふしぎ遊戯オリジナル・サウンドトラック』

 いったい脳内で何のスイッチが入るのか、思ってもみなかった曲が、脈絡なくいきなり頭のなかで再生されることってありませんか? しかも、耳の内側にこびりつくみたいに離れなくて、しばらくのあいだリピートしてしまうことが、私にはあります。それは、最近聴いた曲の場合もあるし、中学生のときに繰り返し流していた、なつかしロックのこともあります。もっとむかしの、小学生のときに観ていたアニメの主題歌のときもある。CDを買ったわけでもないのに、毎週毎週テレビから流れる音楽を聴いていたから、深く記憶に刻まれ、すりこまれているわけです。そこで、突然ですが「頭にこびりついて、忘れようと思っても忘れられないアニソン、脳内リピート率ナンバー3」を、ここで発表したいと思います。

 さっそく、第3位から。『魔法騎士レイアース』のオープニング曲「ゆずれない願い」です。はっきり言いますが、レイアースの話の内容をまったく覚えていません(毎週観ていたはずなのに)。それなのに、この力強い曲だけは、高い確率で脳内リピートします。

 そういう現象がけっこうあります。たとえば、『忍たま乱太郎』の「勇気100%」も再生率が高いのですが、肝心のアニメの中身はさっぱりで、食堂のおばちゃんの「お残しは許しまへんで!」という決めぜりふくらいしか覚えていません。 

 気を取り直しまして、第2位は『幽遊白書』の「微笑みの爆弾」です。これも、「アニソンあるある」なのですが、子どものときはなかなか曲をフルで聴くことができませんでした。テレビの主題歌はたいてい1番までで、大人になってはじめて、全体を聴くことになるわけです。「微笑みの爆弾」は、1番と2番の歌詞が途轍もなくきれいな対になっているのが見事で、ものすごい印象に刻まれました。

 そして、いよいよ1位です。『ふしぎ遊戯』のオープニング「いとおしい人のために」です。アニメの舞台が、古代中国を思わせる世界であるだけに、どこかエキゾチックな雰囲気がただよう曲で、耳に残りやすいということもあるかもしれません。また、歌詞と作品世界のシンクロが高く、子どもの頃、根強く脳裏にすりこまれたようです。

『ふしぎ遊戯』は、ごくふつうの中学生・夕城美朱が「四神天地書」という本のなかに吸いこまれてしまうところからはじまります。美朱が迷いこんだ紅南国では異世界から来た少女が巫女となることで、国が救われるという伝説がありました。朱雀七星士と呼ばれる七人の仲間を集め、アイテムをゲットし、朱雀を召喚することで願いがかなえられるという、言ってしまえば物語の定型のようなあらすじなのに、めちゃくちゃ面白い。七人のキャラが人間くさくて、秀逸なのに、せっかく美朱のもとに集まった仲間たちは敵国の手により、一人、また一人と力尽き、死んでしまう。それが、小学生のときは切なくて、悲しくて毎週はらはらしながら観ていました。本当に、見えない宿命や運命が、美朱と朱雀七星士のあいだを結びつけているのだと信じられるほどに。

 魅力的なキャラクター設定こそが、豊潤な作品世界を支えるいちばんの源であると、子どものときに感じていたわけではないですが、原作の漫画を読み、よりいっそうその思いが強まったせいもあり、自作でも何よりキャラをいちばん重視視しています。

 余談ですが、『ふしぎ遊戯』は少女漫画なので、恋愛要素も多く、登場人物たちはやたらと熱いキスや抱擁を交わします。夕方6時、夕飯の準備をしながら、ちらちらテレビを観ていた母は、『ふしぎ遊戯』に興奮する息子を、いったいどんな目で見ていたのでしょうか?

 最近、アニメーションは動画サイトや録画で観ることも多く、主題歌は飛ばしてしまう傾向にあります。私が子どもの頃は、もちろんインターネットなどなく、娯楽はもっぱらテレビでした。週に一度のアニメを心待ちにしていたから、「いよいよはじまるぞ」と、わくわくしながらオープニングを聴き、エンディングでは「もう終わっちゃうのかぁ」と寂しい気持ちになりました。『ドラゴンボール』で言うと、オープニングの「摩訶不思議アドベンチャー!」とエンディングの「ロマンティックあげるよ」が、まさにそうです。あのときの、胸が躍り、また、締めつけられるような感覚は、もう二度と味わえないのではないかと思います。