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織守きょうやさんに創作の楽しさを伝えた漫画家集団CLAMP

「東京BABYLON」の愛蔵版

 私が初めて触れたCLAMP作品は「20面相におねがい!!」で、私は小学生だった。

 手にとったきっかけは、アニメイトの店頭で配られていた会報誌に、「(漫画の中の)理想のカップルランキング」なるものが掲載されていたことだ。アニメ化もされた有名漫画のメインカップルたちをおさえて1位に選ばれていたのが、「20面相~」の詠心(うたこ)さんと玲(あきら)くんだったのだ。

 少女漫画誌に載っているラブストーリーにまったく興味がなかった私が、若干6歳の幼稚園児である詠心さんと9歳の玲くんの恋愛模様にはときめいた。絵柄の可愛らしさや華やかさだけではなく、彼らの大人びた考え方も新鮮だった。

 影響されて、詠心さんがつけているような、頭の後ろに留める、大きなリボンを買ってもらったこともある。たいていはつけずに箱に入れて眺めていたが、今も憶えている。

 今思えば、世界観と「自由さ」も、私がこの作品に惹かれた理由の一つだったかもしれない。たとえば、「20面相~」にはいくつも謎が存在するが、その謎については明らかにされないどころか、特に触れられもしない。たとえば、何故か主人公に同じ顔をしたお母さんが二人いるとか、父親は健在なのに離れて暮らしている理由とか、高校生の少年が警察を指揮しているとか。

 しかし、それらを「何故か?」と問うのは野暮だ。この漫画において重要なのはそこではないのだ。描きたいところ、読んでほしいところはそこではないから、それ以外の部分については(設定はあったのかもしれないが)説明すらしない、おもしろいところだけ読んで楽しんでもらえればいいという、その潔さ。そしてそれで成立している。おもしろいからいいのだ。読者としては何の文句もない。しかし作り手になるとなかなかそこまで潔くはあれないものだ。自信と実力がなければできない。

 私が「20面相~」の次に手にとったのは、全く違う作風の「聖伝」だった。壮大な世界観のファンタジーで、残酷な描写も多かったが、美麗な絵、独創的な世界観、引き込まれる意外性のあるストーリー、ドキッとするセリフ、魅力的なキャラクターに、私はたちまち魅了された。

 CLAMPの作品なら、どんなジャンルでもおもしろい、裏切られることはない、という確信を得て、私はCLAMP作品を集め出した。漫画の「作家買い」をするということを始めたのはCLAMPが初めてだ。

 CLAMP作品に登場するキャラクターたちの住む世界にも憧れた。「クレームブリュレ」というものを知ったのは(その後何年も、どういうものかは知らないままだった)「CLAMP学園探偵団」からだったし、「東京BABYLON」でおしゃれな高校生の北都ちゃんが食べていたTOPSのケーキを食べてみたかった。大人になってから、東京BABYLONに登場した池袋サンシャインに行ったときは、「ここがあの」と感動したものだ。

 複数の作品において、世界がつながっているという構造にも衝撃を受けた。異なる作品の登場人物たちが同じ学校に通っていたり、ときにはサブキャラクターとして別の作品に登場したりする。CLAMPユニバースといえばいいのか(作品によってはスターシステムに近い部分もあるが)、今では作品間のクロスオーバーは珍しくないが、私はCLAMP作品で初めて知った。平和なコメディの主人公たちが、世界が滅ぶ前提のシリアスな伝奇ものに登場すると、「あっちの話は大団円だったのに、こっちの話に出てきたら死んじゃうのでは!?」とハラハラしたものだ。

 漫画のイメージアルバムの発売、アニメ化、ミュージッククリップの製作、果てには作品に登場する架空の学園都市CLAMP学園の幼等部のおゆうぎ曲を集めた公式アルバム(声優と杉並児童合唱団が歌っている)まで発売するなど、CLAMPの活動は漫画だけにとどまらなかった。

 そうやって、CLAMPという集団が作り上げた世界が外へ広がっていく様子にもわくわくした。ちなみに私は幼等部公式アルバムを購入したし、何度も聴いたので今でも収録曲はフルコーラスで歌える。

 CLAMPは個人のペンネームではなく、原作・脚本、複数の作画担当、背景・仕上げ等のメンバーが集まった漫画家集団の名前だが、チームで漫画を作るという手法を新鮮に感じたし、だからこんなにクオリティが高いのかと納得した。

 コミックの巻末のあとがき漫画でその様子が描かれていて、それを読むのも毎回楽しみだった。

 ものをつくる仕事って、楽しそうだなと思った。私が創作を始めるきっかけの一端になっているかもしれない。

 一番好きな作品を選ぶのは難しいが、一番影響を受けているのはおそらく「東京BABYLON」だ。魅力的なキャラクター、スタイリッシュで現代的な描き方、心に残るセリフ、ショッキングな展開。ささやかな希望や救い。こういうものが書きたい、という思いはきっと私の中にずっとあるし、きっと、私自身も気づかないうちにその影響は私の作品にも表れているはずだ。