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「コロナ時代の選挙漫遊記」書評 目をこらし耳をすませば面白い

評者: 宮地ゆう / 朝⽇新聞掲載:2021年11月13日
コロナ時代の選挙漫遊記 著者:畠山 理仁 出版社:集英社 ジャンル:政治・行政

ISBN: 9784087880670
発売⽇: 2021/10/05
サイズ: 19cm/303p

「コロナ時代の選挙漫遊記」 [著]畠山理仁

 選挙のたび、投票率の低さや政治への関心のなさが話題になる。だが、この本を読むと、ちょっと違った風景が見えてくる。日本の津々浦々で、地盤も看板もない人たちが熱い選挙戦を展開しているのだ。
 大手メディアがほとんど取り上げない候補者たちを丹念に追ってきたフリーライターの著者が、コロナ下の15選挙を巡る。今回も行く先々で出会う候補者たちは印象的だ。
 介護施設の勤務の合間に街頭演説をする人がいれば、有給休暇を取って選挙活動をする会社員もいる。パフォーマンスで有名になった若者は、もっと政策を聞いてほしいと嘆く。卸売市場で働く人は、1円も使わない選挙活動で、政治を変えようとしている。
 ひとりひとりに出馬に至る物語があり、社会を変えたい理由がある。多くの候補者は敗れるが、その選挙戦の中に、私たちが忘れかけている民主主義の原点を見る思いがする。
 なかには売名行為などと批判される候補者もいるが、著者は敬意をもって耳を傾ける。この国で立候補するのは容易ではない。世界一高額といわれる供託金を払って選挙に出てくれる人がいるからこそ、光の当たる社会課題があり、多様な政策が生まれるからだ。
 投票したい人がいなくても票を捨てず、みなで候補者を育てようと、著者は説く。最初から完璧な候補者などいない。投票しないのは「自分から遠い存在の誰かを当選させる強烈な政治行動」でしかない。
 なにより選挙は楽しむものだと教えられる。東京都知事選だけでも55億円以上かかっている。そんな一大イベントに、出資者の私たちが参加しない手はない。
 何をどう楽しめばいいかわからないという人もご安心を。この本は選挙観戦ガイドブックでもある。無類の選挙好きの著者が、選挙事務所の回り方まで指南してくれる。手に取れば、次の選挙が格段に面白くなるのは間違いない。
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はたけやま・みちよし 1973年生まれ。著書に『黙殺』『記者会見ゲリラ戦記』『領土問題、私はこう考える!』など。