古代史に対して謎とロマンを求める人は多い。古代史の書籍が書店に並び、熱心に読まれるのはこうした欲求を満たすためではないか。しかし、古代の真実を追い求めるには、過去の多くの研究者の努力と挑戦が必要であった。
戦後の古代史研究は、まず文献史学による『古事記』『日本書紀』に対する批判的な読み方が主流となり、「王朝交替説」や「騎馬民族征服説」などが議論された。そして、高度経済成長による開発が全国に及ぶと、考古学の発掘が盛んとなり、多くの遺構・遺物が発見された。「最大」「最古」「唯一」という文言が、新聞の見出しに躍った。
やがて、大規模発掘が一段落すると、今度は考古学と隣接諸科学、とりわけ理科系の新しい手法との共同研究により、多くの成果が発表されるようになった。
本書は、古代史研究に対する動向の変化を踏まえ、グローバルヒストリーという立場から新たな古代史像の提案をしている。
ただ、新しい試みだけに、安定的な説となるためには、まだ多くの追検証が必要である。また、グローバルヒストリーを標榜(ひょうぼう)するが、東アジアを視野に入れることは、すでに文献史学の分野では普通におこなわれてきた。「日本」という国号の始まりについても、東北北部・北海道や沖縄は、まだ古代国家の版図に入っておらず、グローバルを強調する前に、近代日本との違いを指摘して欲しかった。こうした用語の分かり易(やす)さと厳密さのバランスが気になった。
本書に人気が集まるのは、近年マスコミで単発的に紹介される新たな分析手法を、通史の中に、分かり易く位置付けたからではないか。NHKの番組を再構成しつつも、番組ディレクターの執筆により諸学説に目配りした、新たなストーリーが展開されている。
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NHK出版新書・1078円。1月刊。5刷3万部。「50代以上の男性を中心に幅広く読まれているようです。研究の最前線をジャーナリズム的手法でまとめ、スケールの大きな歴史像を示した点が受け入れられたのでは」と担当者はいう。=朝日新聞2025年3月15日掲載
