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「禁忌の子」著者・山口未桜さんは子育て中の現役医師 本屋大賞候補の医療ミステリー

「禁忌の子」について語る山口未桜さん

 デビュー作の医療ミステリー「禁忌の子」(東京創元社)が4月9日に発表される本屋大賞にノミネートされた。作者の山口未桜(みお)さんは現役の医師として大阪で働きながら、作家になる夢をかなえた。

 候補の知らせを聞いた時、「いろいろな思いがこみあげて泣いてしまいました」という。

高校時代からの夢

 本を読まない日はないという読書好きな子ども時代を過ごし、高校で文芸部へ。書いた小説を、みんながおもしろがって読んでくれるのがうれしかった。3年生の時、高校生向けの文芸コンクールで入賞。作家になりたいと思った。

 だが家族の反対にあい、医学部受験へ転じた。「自分でも壁を感じたんです。まだ人生経験が足りないので、書くものの幅が限られるなと」

 消化器内科の医師としてやりがいを感じて働いてきた。そこでコロナ禍に見舞われる。医療現場は緊迫し、続けてきた臨床研究も難しくなった。そんななか、出産が重なった。

 2021年、育児休業からフルタイムで復帰した。だが、臨床や子育てと並行して論文の執筆などを続ける難しさを痛感。「研究面でのキャリアに限界を感じました。挫折でした」

 これから、どう生きていこうか。模索した。その時、高校時代の夢がよみがえった。小説を書こう。

 日中は病院で働き、保育園に預けた子どもを迎えにいって、寝かしつける。深夜11時から2~3時間が執筆タイムだ。「書くことは家でできますから。疲れて帰ってきても、やる気さえあれば」

 そうして1年ほど改稿を重ねて書き上げた長編が昨年、鮎川哲也賞を受賞、単行本として刊行された。

 ある晩、救急医のもとに搬送されてきた溺死(できし)体が自身とうり二つだった。いったい自分は誰なのか。救急医が自らのルーツをたどるなか、密室でカギを握る人物が遺体で見つかり、謎は深まる。生殖医療が軸となり、切実な秘密が明かされていく。

医療用語も平易に

 医療用語がちりばめられているが、説明はわかりやすく、テンポよく話が進む。「働く人たちは読書から離れがちになる。おもしろくないと感じた時点で本を閉じてしまいます。ページをめくっていただけるよう、ずっとおもしろいようにと意識して書きました」

 臨床家として患者に向き合って13年。ときに運命のままならなさに直面する。それでもなんとか生きていく人間の強さを感じる。「そんな死生観が醸成され、小説に反映されているのかもしれません」

 さまざまな形の人生と愛の物語は、探偵役の医師、城崎響介が登場するシリーズとして続く予定だ。

 医師として、作家として、どちらも真剣に。「患者さんに迷惑をかけないように」と心している。

 「医師を続けるなかで感じた人生観を含んだ、謎のある人間ドラマを書いていきたい」=朝日新聞2025年3月12日掲載