沖縄の強い想いに突き動かされた/星野源
『海をあげる』は、教育学者の上間が、自身が調査・支援している若年出産する少女たちのことや、土砂が投入される辺野古の海のことを、暮らしの延長線上でつづる。沈黙を余儀なくさせられている人々のかすかな声と思いが浮かび上がるエッセーだ。
星野 「僕は20代のころ、沖縄居酒屋でアルバイトしていた経験から、勝手に沖縄との縁を感じていました。でも本を読んで、沖縄の現状やそこで暮らす人の想(おも)いに改めて気付かされました。上間さんは、感情的に訴えるのではなく、現実を丁寧に描写し、淡々と描く中で、人の想いを伝える。行間から上間さんの強い怒りや想いが伝わってきて、突き動かされました」
上間 「ありがとうございます。本土の人に伝わるよう、書き方や章の並び順をかなり考えました」
星野 「沖縄で暮らす少女たちの支援もされていますよね」
上間 「そうなんです。10月からは若年ママが出産前後を過ごせるシェルターも始めました。弱者をねらった貧困ビジネスが沖縄でも始まっていると聞き、腹をくくって数人で立ち上げました」
星野 「この本を読んだ時、僕は都会的な恋愛ドラマの主題歌を作っていたんですが、本を読んだ後は、キラキラした都会だけじゃなく、本に出てくる女の子や街にも響くにはどうすればいいのか、悩みながら制作しました。自身の感覚としても世の中は『地獄』であるとはっきり思って作ったのが『不思議』という曲です。地獄の中でも、好きなものや愛は生むことができると」
上間 「ご自身のラジオ番組でそうお話しされていましたよね。沖縄では大騒ぎになりましたよ。暗いことが多かったので、みんなが喜ぶ顔を久々にみました」
星野 「ああ、よかったです」
「好き」がキーワードなんですね/上間陽子
上間 「星野さんの『いのちの車窓から』を読むと、『好き』がキーワードになっていますね」
星野 「僕は小さいころから、周りの人が思う『普通』と自分の感覚が違っていたので、折り合いをつけながらやってきたんです。テレビ番組でも音楽でも『好きなもの』があることで生きてこられた。自分の好きなものは『変だ』と言われたこともあったけど、『これが僕の普通だ』と伝えて広めていけばいいんだと思いました」
上間 「普通といえば、わたしも、ごく普通の日常から、沖縄の問題を伝えたいと思ったんです」
星野 「はい。刺さって抜けないほどに伝わりました。……今は何をしても傷つく世の中になってしまって、普通でいられないですよね。朗らかに楽しく生きるってこんなに難しいのかと思います」
上間 「そうですね。星野さんは10月の選挙前に、ご自身のラジオ番組に評論家の荻上チキさんを招いて、ふたりでお菓子を食べながら、部活感覚で、選挙も音楽の話題も同じように普通におしゃべりしていましたよね。あれ、楽しそうでよかったです」
星野 「選挙や社会的なことを話すことも『普通』の感覚ですよね。そうして工夫すれば『自身の普通』を伝えて増やしていけるんじゃないかと思うんです」(構成・加来由子)=朝日新聞2021年12月11日掲載