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小野寺史宜さんに「負けた」と言わせる映画「がんばれ! ベアーズ」

DVD版の「がんばれ! ベアーズ」

 これは観たいと自分で思って初めて観た映画は、「がんばれ! ベアーズ 特訓中」。

 1977年に公開されたアメリカ映画。少年野球チーム、ベアーズシリーズの第2作だ。当時、僕は9歳。小3。同時上映はスヌーピーの映画だったような記憶がある。

 その後、第1作の「がんばれ! ベアーズ」も観た。くり返し何度も観た。テレビで放送してくれるたびに観たし、レンタルビデオを借りても観たし、大人になってからはDVDを買ってまで観た。

 この第1作には、ウォルター・マッソーや、子役時代のテイタム・オニールやジャッキー・アール・ヘイリーが出ている。

 ウォルター・マッソーは、元マイナーリーグの選手だが今はプールの清掃人である監督バターメイカー役。テイタム・オニールは、女子だがチームのエースピッチャーであるアマンダ役。ジャッキー・アール・ヘイリーは、不良少年だがチームの主砲であるケリー役。

 昼間から酒を飲み、やる気などまるでなかったバターメイカーが、弱小であることに慣れてしまったベアーズとともに少しずつ前に進んでいく。それだけの話。

 と言うと、スポ根ものを連想させてしまうが、そんな感じでもない。バターメイカーは最後までダメなおっさんだし、チームの面々も飛躍的に上達したりはしない。やりようでどうにか勝っていく、という感じだ。

 それでもこの映画の評価は高い。好きな人も多い。

 実際、いい。何がいいって、大人目線でないところがいい。カメラがちゃんと子どもの目線に下りている。その世界にまで入りこめている。子どもには意外としんどい子どもの世界があることを、大人に思いださせてくれる。

 リーグ最終戦、ヤンキースとの試合。そこにはたくさんのドラマが詰まっている。ベアーズのメンバーだけでなく、ヤンキースのエースピッチャーのドラマまで描かれる。大人と子ども。子ども同士。敵と味方。味方同士。様々な関係の変化が、少年野球の一試合に凝縮されている。

 エースピッチャーの父親はヤンキースの監督。その親子の衝突をきっかけに、ベアーズが点をとる。

 そこまでは無意識にピッチャーの側に立ち、いくらか沈んでいた僕ら映画の観客はそこで、あ、そうだ、おれ、ベアーズ側じゃん、と気づき、ベアーズの得点を喜ぶ。そのあたりの視点の切り換えが絶妙。演出がうまい。

 リードを許した弱小ベアーズは最終回の攻撃で追い上げる。が、勝てない。優勝トロフィーを手にしたのはヤンキース。試合が終わってノーサイド、みたいにもならない。ヤンキースは勝者で、ベアーズは敗者。でも後味は決して悪くない。

 人が退くことで熱も退いていくあの感じ。試合が終わったあとの夕方のグラウンドってこんなだったよなぁ、と、子どものころにスポーツをやっていた大人なら懐かしく思いだすこともできるだろう。

 この映画は音楽もいい。ビゼーがつくったカルメンの楽曲がいたるところで効果的につかわれている。

 考えてみたら。このカルメンがクラシック音楽と僕の最初の出合いだったかもしれない。何だよ、これもクラシックなら、クラシックっていいじゃん、と、たぶん、僕は思った。

 多少は重いドラマも盛りこまれているが、「がんばれ! ベアーズ」は基本的に明るい映画だ。内気なルーパスやメガネのオギルビーやぽっちゃりキャッチャーのエンゲルバーグなど、わきにも魅力的な登場人物が多い。

 僕のイチ推しは、何といっても、タナー・ボイルだ。チームのなかでもひときわ小柄だがケンカっぱやいこのタナーにはやられる。ザル守備に笑わされつつも、根っこの強さには打たれる。

 十代のころ、僕は自分がシルヴェスター・スタローンやジャッキー・チェンでないことを残念に思う以上に、タナー・ボイルでないことを残念に思っていた。

 と、そう思わされたら僕の負け。映画の勝ちだ。

「がんばれ! ベアーズ」。これを機に、第2作「特訓中」とセットで、またDVDでも買ってみるかな。