2021年も複数の漫画家が亡くなった(カッコ内は没月・享年)。
「緑野原学園」シリーズで知られる星野架名(4月・57)、「ベルセルク」で旺盛な創作を続けていた三浦建太郎(5月・54)、コミック版「魔王学院の不適合者」を連載中だったかやはるか(7月・年齢非公表)、「ヤンキー水戸黄門」で新たなギャグに取り組んでいた和田洋人(同・46)、そして「緋(ひ)の稜線(りょうせん)」などで人気を博した佐伯かよの(8月・69)と、絶筆が惜しまれる世代の訃報(ふほう)が相次いだ。
一方、サラリーマンの視点から世相風俗を描き続けた「フジ三太郎」のサトウサンペイ(7月・91)、貸本マンガ最大のヒット作「忍者武芸帳」の白土三平(10月・89)、その白土の「カムイ伝」シリーズで作画を務めた白土の実弟・岡本鉄二(同・88)、「ダメおやじ」の古谷三敏(12月・85)、「日本凄絶(せいぜつ)史」の平田弘史(同・84)と、戦後マンガの巨匠たちも。
さいとう・たかを(9月・84)は、劇画というジャンルを育て、大人まで読者に定着させた。創作の分業制によって安定供給と多産を実現し、締め切りと読者を最優先するスタイルを最後まで貫いた。ギネス世界記録に認定された「ゴルゴ13」の発行巻数はその驚異的実績を証明している。
「風雲児たち」で歴史大河ギャグの新境地を開いたみなもと太郎(8月・74)はマンガ研究家でもあった。評論「お楽しみはこれもなのじゃ」に、学習新書「マンガの歴史」と、作品・作家の歴史に精通し、表現の仕組みを明解に分析。漫画家と両立したその活動は尊敬の一語に尽きる。
この両人の過去の対談記事が、リイド社「コミック乱」11月号に再録された。さいとうの「鬼平犯科帳」(原案/池波正太郎、脚色/大原久澄)など、本誌には時代劇マンガがそろっており、「風雲児たち」も掲載されていた。その縁でみなもとの追悼特集が組まれたわけだが、2人の訃報は1カ月ほどしか違わず、結果的にさいとうの命日近くに刊行されることとなった。
対談後にみなもとは、さいとうの功績の大きさとそれに対する評価の少なさを強調していた。先人たちが残した作品や人生を我々はより丹念に検証する必要がある。それら無くして「マンガの現在形」は存在しないのだから。=朝日新聞2021年12月28日掲載