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「女性作家集 蝶のしるし」/「台湾女性文学の黎明」書評 歴史に埋もれた声が照らす現代

評者: 温又柔 / 朝⽇新聞掲載:2022年01月29日
台湾文学ブックカフェ 1 蝶のしるし 著者:呉 佩珍 出版社:作品社 ジャンル:アジアの小説・文学

ISBN: 9784861828775
発売⽇: 2021/12/08
サイズ: 19cm/273p

台湾女性文学の黎明 描かれる対象から語る主体へ1945−1949 著者:豊田 周子 出版社:関西学院大学出版会 ジャンル:アジアの小説・文学

ISBN: 9784862833259
発売⽇: 2021/12/15
サイズ: 22cm/231p

「女性作家集 蝶のしるし」 [編]呉佩珍、白水紀子、山口守/「台湾女性文学の黎明」[著]豊田周子 

 『蝶(ちょう)のしるし』は、台湾ブックカフェと銘打たれたシリーズの第一弾。恋愛、結婚、家族、セクシャリティなどをめぐる、誰の身にも覚えのある、様々な人生のさざなみが、各作家の手腕によって、それぞれに魅惑的な小説へと磨き上げられている。
 台湾のレズビアン文学のレベルの高さはよく知られているが、その記念碑的一作である表題作の著者・陳雪は、「早くからLGBT解放運動にも積極的に関わっており」「二〇一九年に台湾で同性婚が認められると、初日に役所に出向いて結婚登記をしている」。
 生きることを、書くことや読まれることと連動させながら、必要あらば国家や社会、制度の枠組み自体に異議申し立てする台湾の女性作家たちの「声」は、高らかであると同時に健やかだ。
 しかしそんな台湾でもかつては、女性が文学の担い手になるのは決して簡単なことではなかった。『台湾女性文学の黎明(れいめい)』の著者・豊田周子によれば「台湾が中華民国に復帰し、日本語から中国語へと『国語』の転換があった戦後初期」は、「植民地の言語・教育政策と、漢族系社会や植民地を通じて影響を及ぼした日本社会に脈々と息づく、女性軽視の観念」も災いし「文学創作という高度な言語運用能力」を発揮するのは専ら男性の特権と化していた。
 重要なのは、いつの時代にも存在していたはずの「ものを思う女性」たちは、常にただ黙って「描かれる対象」の地位に甘んじたわけでなく、また、そのような女性の声を作品内に描くべく努力をした男性作家も多くはないがいたという事実だろう。「描かれる対象から語る主体」となりつつあった時期の女性たちの「歴史の間に埋もれた」声を「文学史に位置づける」豊田の丹念な仕事を辿(たど)ったあと、「多元的なアイデンティティが絡み合う現代台湾」の女性作家たちの作品とむきあうと、その輝かしさの重みは増す。
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ご・はいちん、しろうず・のりこ、やまぐち・まもる▽とよだ・のりこ 1978年生まれ。名城大准教授。