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塚本やすしさんの絵本「やきざかなの のろい」 布団の中やお風呂に・・・笑える呪いが続々と

文:坂田未希子、写真:本人提供

トラウマが絵本のアイデアに

――焼き魚がきらいな僕は、食べたふりをして食べ散らかし、お母さんに「もっと ちゃんと たべなさい!」と怒られてしまう。夜、お風呂に入っていると……「きらわないでくれ〜 ちゃんと たべてくれ〜」。なんと、食べ散らかした焼き魚が現れて――。奇想天外な「呪い」が楽しくて恐ろしい、塚本やすしさんの『やきざかなの のろい』(ポプラ社)。作品誕生のきっかけは、自身の思い出からだという。

 子どもの頃、焼き魚が嫌いだったんです(笑)。お刺身は好きだったけど、焼き魚が出てくるとガッカリ。骨があって食べにくいし、内臓のところは苦いし。絵本の「僕」と同じです。お腹は空いてるから慌てて食べて、骨が喉に刺さったり。そういう経験を何度もして、トラウマみたいになってましたね。そんなことを思い出していたら、「焼き魚の呪い」ってどうだろうって、アイデアがわーっと浮かんできました。

『やきざかなの のろい』(ポプラ社)より

――「呪い」という、少々絵本らしからぬタイトルに加え、暗闇に焼き魚の目がギョロリと光る表紙もインパクトがある。

 絵本作家になる前にブックデザインの仕事をしていたこともあって、その辺りはちょっと計算しています。当時は、黒い表紙の絵本があまりなかったこともあって、「呪い」っぽいし、いいなと思って。そこに焼き魚をガッと。編集者さんから「子どもたちは必ず目を見る」と言われたので、魚の目玉が真ん中にくるようにレイアウトしました。本当は、表紙の裏表で1匹つながってるといいんですけど、お皿に置く向きを考えて、あえて右向きにしました。

焼き魚がこんなことをしたら嫌だ

――そんなおどろおどろしい表紙から、いったいどんな呪いにかけられてしまうのかとドキドキするのだが、焼き魚がお風呂に入ってきたり、布団の中に入ってきたりと、思いもよらぬ展開についつい笑ってしまう。

 日常生活の中で、大嫌いな焼き魚がこんなことをしたら嫌だなぁという呪いを考えました。お風呂に入ってこられたら、出汁も出ちゃいそうで嫌ですよね(笑)。ほかにも、歯磨き中とか、トイレなどを考えました。トイレの中から焼き魚が出てきて少年のおちんちんをパックリ! これは、ボツになりました(笑)。笑っちゃうような呪いがいいなと、編集者さんと爆笑しながら作ったので、それがよかったなと思っています。

『やきざかなの のろい』(ポプラ社)より

――「きらわないでくれ〜」と、しつこく追い回す焼き魚。ピンチに追い込まれた僕を助けてくれるのは猫だ。

 しつこく追い回す発想は、「シャイニング」とか「ジョーズ」などのパニック映画からきています。子どもの頃に観て、大人になっても恐怖として残っていて、あの怖さをイメージしました。とはいえ絵本なので、どろどろした恐怖作品にするのではなく、笑えるように。

 最後は、魚といえば、ということで猫。「サザエさん」じゃないけど、昔からシンボリックな関係ですよね。実は、僕が猫を飼っているというのもあります。絵本と同じ「はち」という名前の猫で、当時はまだチビ猫だったんですけど、絵本に出したかった(笑)。

――本作は、デビュー作『このすしなあに』『はしれ!やきにくん』に次ぐ、「ぶっとびおもしろ食育絵本」シリーズ(ポプラ社)の3作目でもある。

 僕自身は、食育というのはそこまで考えていないです。魚も食べてほしいけど、嫌いなもの、生理的に受け付けないものもあります。それを、身体にいいからって全部食べてもらう必要もない。ニンジンが苦手、ピーマンが嫌いでも、他の野菜が食べられればいいと思っています。

 だから、焼き魚を食べよう!という感じではなく、美味しいんだよとか、食べるきっかけになればいいかなぐらいに思っています。ちなみに、僕は大人になってから焼き魚は好きになって、すごく美味しく食べています。

 食べ物の作品を描くことは多いですね。子どもの頃から食いしん坊で、食べることに執着していたので、むしろ得意です。ゼロから何かを考えるのではなく、自分の中にあるものなので。焼き魚の思い出もそうだし、お寿司だったらどんな関わりがあったかなとか、描きやすいですね。

――今後は、時代に合わせた絵本作りにも挑戦していきたいという塚本さん。

 これからは電子書籍の時代になっていくと思うので、デザイナーとしての脳みそを使って新しい絵本を作っていくのもいいかなと思っています。紙の絵本はなくなってほしくないのですが、世の中の変化にはついていかないと。昔の巻物がなくなったように、どんどん変化していくんだと思います。

 もちろん、これまで通り紙の絵本も作っていきたいです。面白い絵本だけでなく、戦争とか社会的なことをテーマにした作品も描いているので、二本立てで。僕はスカイツリーのある墨田区で生まれ育ちました。子どもの頃、食べ物や物を粗末にすると、母親から「やすし! 戦争中はそんなことできなかったんだよ!」と怒られて、当時の話を聞かされていました。大人になって考えてみたら、すごく貴重な話だなと思って、『せんそう 昭和20年3月10日 東京大空襲のこと』(文:塚本千恵子/東京書籍)という本を出しました。戦争を体験した語り部がいなくなっていく中で、僕らは体験者に直に話を聞いている世代なので、間違ったことが伝わっていかないように、勉強しながらわかりやすく伝えていきたいと思っています。

 お笑いも大切なので、楽しい絵本も作っていきます。今、子どもたちも大好きな「あの食べ物」を主人公にした新作も制作中です。ビッグヒットになると思うので、楽しみにしていてください!