- 不村家奇譚 ある憑きもの一族の年代記
- 巫女島の殺人 呪殺島秘録
- 忌木のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件
このところ、ミステリーとホラーを融合させた作例が目立っている。中でも、民俗学的なテーマや、古くから続く不条理な因習が絡んでくるタイプの作品に人気があるようだ。まるで、この二一世紀になっても、旧弊な部分が間欠泉のように執念深く噴き出してくる日本社会のダークサイドを反映しているかのように。
彩藤(さいどう)アザミ『不村家奇譚(ふむらけきたん) ある憑(つ)きもの一族の年代記』は、憑きもの筋と呼ばれた旧家の、戦後から近未来へと続く歴史を年代記風に綴(つづ)った連作短篇(たんぺん)集だ。不村家ではしばしば、「あわこさま」と呼ばれる霊に躰(からだ)の一部を喰(く)われた状態の子供が生まれるという。限られた者の目にしか見えない「あわこさま」の正体とは?
「さんざしの犬」における、躰に障碍(しょうがい)がある奉公人ばかりを集めている不村家の描写や、「月の鼓動を知っているか」でのボーイズラブ的な要素は、江戸川乱歩の名作『孤島の鬼』を令和の世に蘇(よみがえ)らせたかのようだ。猟奇と怪奇で極彩色に塗り込められた物語の奥から、宿命に翻弄(ほんろう)される人々の愛と苦しみが浮かび上がるあたりも『孤島の鬼』との共通点である。ひとは、因習や血の呪縛といったものから逃れおおせることができるのだろうか。
萩原麻里『巫女(みこ)島の殺人 呪殺(じゅさつ)島秘録』は、かつて呪術者たちが流された島を舞台とする民俗学ミステリーの第二弾。瀬戸内海の千駒(ちこま)島から「僕」が通う大学に、この島の呪いを打ち破ってほしいという手紙が届く。「僕」は恩師の世志月(よしづき)准教授らとともに現地に赴くが、そこで惨劇に遭遇する。
その地でしか通用しない異様な論理や価値観を奉じる人々を前に、余所者(よそもの)である「僕」たちにできることは限られている。人を殺(あや)めてまでも守られなければならなかった祭祀(さいし)の秘密と、伝統の呪縛の下でそれぞれにもがき苦しむ島の若者たちの運命が切ない。本格ミステリーとしての大胆なトリックにも要注目だ。
阿泉来堂(あずみらいどう)『忌木(いみき)のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件』は、自身が体験した怪異を小説化している那々木悠志郎の活躍を描くシリーズの第三作。その担当編集となった久瀬古都美(くぜことみ)は、彼の未発表原稿を読むことになった。それは那々木の怪異初体験を題材にした小説だというが、それを読むうちに、作中で描かれた怪異が古都美の身にも迫ってくる。
作中作と現実、それぞれの世界での恐怖を交錯させながら、著者は思いがけないところに巧みな仕掛けを施しているのだ。近年密(ひそ)かに流行中の「作中作ミステリー」に、ホラーの方面からアプローチした異色作である。=朝日新聞2022年2月16日掲載