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ずん・飯尾和樹さん「ずん・飯尾の開き直りごはん」インタビュー 空腹は何よりの調味料、味見はこまめに

飯尾和樹さん

300円で奇跡のブリ大根

――初めてのレシピ本、刊行おめでとうございます。

 ありがとうございます! 本当に。ようこそ「クッキング・アドベンチャー」。

――情報番組「ノンストップ!」のコーナー「ワリカツ!」が本になったのですね。拝見しています。

 「ワリカツ!」というのは、「おトクな割引生活」という意味なんですけど、コーナー独自のルールがあるんです。

 新型コロナが拡大してからは、食材の書かれたサイコロを振っているんですけど、ひどかった時は、「チョコレート」を3回引いちゃった。あと「ホタルイカ」2回、「梅干し」1回とか。葉っぱ(葉物野菜)だけだった時もあったなあ……「修行中かよ!」って突っ込まれて。

 商店街ロケで、予算をサイコロで決めるんですけど、最低額「300円」を引いちゃった時は、もうほとんど買えない。でも、奇跡が起きたりもするんです。だから、本のタイトル通り「開き直る」しかない。

レシピ例①「フィッシュ&コニャップス」。イギリスと言ったら、「フィッシュ&チップス」をタラとコンニャクで! めんつゆで煮てから揚げることで味しみしっかり。ビールが進む絶品おつまみになりました

――それこそ、2月3日に放送された横浜の洪福寺松原商店街の回では、「300円」を引いていましたね。魚屋のおかみさんに勧められるまま、お買い得の「ブリあら」200円を購入。飯尾さんは、残金たった100円で、「ブリ大根」をつくるために商店街じゅうを歩き回っていました。白菜は予算内で見つかったけれど、「『ブリ白菜』は無いでしょう」ということで。

 そうでしたねえ。「ブリ大根」。いや、もうホント、大根が高いんです。このロケをやっていると「30円足りない」とか、ひどい時には「プラス消費税」でダメになっちゃう時もある。「70円? やったあ、予算内だ。大丈夫だ!」と思って買おうとしたら、「77円です」……。「いいよ、まけておくよ」ってお店の人には言われるんですけど、それはNG。ガチンコでやるんです。横浜の商店街では、大根を探して求めトボトボ歩いていたら、八百屋さんが「折れていた大根、あったよー!」って駆けつけてくれて、100円で売ってくれた。助かりましたねー。

――300円で奇跡の「ブリ大根」。魚屋さんのおかみさんの進言で、「味付けは醤油だけ、水分は大根から出る水分だけ」という超簡単レシピでした。

 レシピもビックリしますよね。俺、「ブリ大根」をつくったことは何度もあるんですけど、おかみさんは「下茹で不要」って。ブリには熱湯をサッとかけて、臭みを最初に落とすんですけど、あとは、醤油をかけて煮るだけ。「これでいいの?」ってビックリしてね。魚屋さんでは「お店にある灯油ストーブでコトコトゆっくり」。そうしたら、ちゃんと良い色になって。感動しました。

食品会社の力にも頼る

――美味しそうでした。しかも超簡単。特にコロナ禍で、やむを得ず自炊しなきゃ、という人に朗報。

 そうですね。俺も、2020年4月7日以降、「緊急事態宣言」だった時に、とりあえず2週間、スケジュールが真っ白だったんですよ。家でつくっていました。夕方4時ぐらいにスーパーで3日分の食材を買って、5時前ぐらいからつくっていましたね。カレー、煮込み料理。あと揚げ物もやりました。天ぷらが食べたくなったので、「難しいなあ」と思いながら揚げたり。ここ2年間で上手くなったのが、ブロッコリーやアスパラの下茹で。熱湯に塩を多めに入れて、15秒から20秒くぐらせて、サッと上げてしまうんです。あとは余熱でスーッと。こうするとビチャビチャにならないんです。

――本の最初には、「開き直りごはんのルール」が記されています。「味見はこまめに」などなど。面白いのは「空腹にさせる」というルール。

 空腹は何よりの調味料ですよ。文句を言っている場合じゃない。僕がセロリ好きになったきっかけも、すごくお腹が空いてしまって、料理中にたまたまあったセロリをちぎって食べたから。すごく甘く感じたんです。身体が求めているから。大好きになっちゃって。最近は料理をつくりながら、セロリをかじってビールを飲んで。

――あと「食品会社の力に頼る」っていうルールも。

 そうですね。使える食材が少ない時は、うま味が出る調味料やインスタント麺の粉末スープなど、一発で味が決まるものに頼るのが大切なんです。「マルタイ」(本社・福岡)のラーメンが番組にプレゼントされた時は、助かりましたね。スープにカレー粉を入れただけで、カレーラーメンができる。皆さんが研究を重ねて商品化していますから、そりゃ美味いに決まっています。「マルタイ」の粉末スープは、野菜炒めの味付けにしても美味しい。カレーといえば、緑の「ジャワカレー」の中辛も大好きです。そこに、別のカレー粉をちょっと混ぜたりしても美味しいですね。

レシピ例②「間違って日本に伝わってきた生春巻き」。「ワリカツ!」おなじみ棒ラーメンを炒めて、たっぷり野菜と一緒にライスペーパーで巻いたら、エスニック感満載の変わり生春巻きに! スダチの酸味が決め手です

小2でサンドウィッチデビュー

――飯尾さんご自身の料理歴について伺いたいのですが、90年代初頭、新人だった飯尾さんは所属事務所の先輩・関根勤さんと小堺一機さんのユニット「コサキン」のラジオ番組に出演されましたよね。その際、飯尾さんは、番組プロデューサーに料理を振る舞っておられました。たしか、料理のジャッジをもとに、番組の出演権を勝ち取って……。リスナーだった私はその当時からずっと「飯尾さん、イコール料理」というイメージがあるんです。

 おお! コサキンさん! そうですそうです、何をつくったんでしたっけね。プロデューサーから「料理人になった方が良いんじゃないか」と言われました。懐かしい。料理は、子どもの頃からつくっていましたから。両親が共働きだったので。

――ご両親は東京・目黒区役所に勤務されていたのですよね。

 そうです。それで、小学校2年生の時、サンドウィッチからデビューしました。火を使わないでつくれますからね。卵は茹でてあったから、潰してマヨネーズであえて、ツナとキュウリをパンにはさんで。3、4年生の時に、「ガス検定」が両親のもとでありまして。ガスの使い方を覚えさせられたんです。「とりあえず元栓を閉めろ」と。徹底的に叩き込まれました。そこからですね。カレー、茹でたまご。

――飯尾さんは3人きょうだいのご長男。弟さんや妹さんにも振る舞ったのですか。

 そうですね。で、だんだん妹も、弟も、つくるようになって。うちでは全員が料理します。レパートリーを増やして、料理本を買って。おふくろが愛読していた「きょうの料理」、「3分クッキング」「料理天国」「料理の鉄人」「世界の料理ショー」。夏休みに特に観ていましたね。でも、「大さじ何杯で……」とかはやらない。今もそうなんですが、目分量でやっていました。親父もおふくろも、分量は見ずに、おたまにすくって「ちゃー」って。その頃から「足りなかったら、足す」「濃かったら水を入れる」がルールでした。

――この本のルールにも書かれている通り、大きなポイントは「味見をこまめにする」。

 味見は昔から必ずしていました。チャーハンも「濃いなあ」って思ったら、ご飯を足す。それでどんどん量が増えちゃった。自分の空腹だけを満たすためにつくったのに、「4人前つくっちゃったな」。とにかく「濃かったら薄める」。あと、甘みを出したければ、ニンジンとかタマネギを擦(す)ったものを入れる。ハチミツ、みりんも入れてみる。

芸人で共同生活

――高校卒業後、芸人を志した飯尾さんは、おじいさまの所有する一軒家に、複数の芸人さんと共同生活を送っていたのですよね。

 ちょうど「コサキン」さんの番組に出た頃ですね。2000年の「ずん」結成の前後も住んでいました。

――共同生活の時も、飯尾さんが料理を振る舞っていたのですか。

 していました。ただ、一緒に住んでいたやつで、今は芸人を辞めて会社を経営している荒賀君っていう彼が、芸人をやる前に関西の老舗割烹で働いていて、異例の出世で漬物当番になったヤツだった。彼の料理が美味かったです。鍋も、美味かった。

――荒賀さんといえば、2000年「ずん」結成にあたって駄々をこねた相方・やすさんを説得した人ですよね。「ずん」誕生の立役者。

 そうですそうです。「二人は絶対に組んだほうが良い」と言って、やすを説得してくれた人です。荒賀君のつくる鍋では、はんぺんをみじん切りにして、それを鶏つくねに入れて丸めた具が美味しかったですね。アイディアがある。

――ふわふわ食感になりそうですね。

 そうです。酔っ払って、最後「〆(しめ)につまみが欲しいな」っていう時には、焼きそばを作ってくれるんですけど、すごくマヨネーズ入れるんです。「すごい照りだなあ!」。味濃くて美味いです、酒飲んでいるから。お金がなかったから、ホットプレートでお好み焼きやったり、餃子焼いたり。

――青春ですね。

 いやそうですね。楽しかったですね。米どころ出身の後輩のご両親が送ってきてくれるので、米は欠かさなかった。10キロの米袋が月2回送られてきた時には、「いや、相撲部屋じゃないですから」って。幕内のいない相撲部屋みたいな。差し入れだけはすごくて。

――そんな、仕事がまだ少なかった当時、同じ事務所で仲良しの「キャイ~ン」と一緒にいることが多かった飯尾さんが、先輩・関根勤さんの舞台「カンコンキンシアター」出演がきっかけで、2001年「笑っていいとも!」(フジテレビ)に大抜擢。そこから飯尾さんの人生がガラッと変わりました。

 無名だった自分が出演したことで、初回の放送後はちょっとした騒ぎになったみたいです。「あいつは誰だ?」って。「笑っていいとも!」では、藤井隆くんや元SMAPの草彅剛くんが優しかった。レギュラーで全国放送に出たのは初めてでした。

――「ザ・イロモネア」(TBS)、「とんねるずのみなさんのおかげでした」、「IPPONグランプリ」(フジテレビ)で、ジワジワと独特の存在感を放ってきた飯尾さん。忘れられないのは、2012年12月放送の「みなさんのおかげでした」のドッキリ企画です。長年交際しつつ、距離を置いていた相手に飯尾さんがプロポーズしたら、なんとOK。電撃結婚が叶いました。以降、食生活に変化は。

 そんなに変わっていないかも知れない。奥さんの実家が製麺所で、麺類が増えたかな。焼きそばとかを持ってきてくれたりするんで、美味しいですね。料理をつくることはストレス発散。奥さんもやってくれます。最近では「豚しゃぶ」をよく食べるんです。だしをそばつゆにして、ネギをたっぷり入れて。美味しいんですよね。「〆」にうどんを入れても美味しい。

あると便利なタマネギ

――料理コーナー「ワリカツ!」が始まって2年半。この本には、人気メニューのレシピ、番組収録の裏側のルポ漫画、これまでのコーナーの歩みなどが丸ごと詰まっています。番組を始めてから気づいた、あると便利な食材、それから魅力に気づいた食材は。

 あると便利なのは、まずは「タマネギ」ですね。よく炒めればコクになるし、サラダにも変わる。揚げても美味しい。チーズは何でも美味しくしてくれます。タマネギ、ジャガイモ、ニンジンは、我が家では欠かさない。あと、キノコも多いかな。キャベツ、トマト。……そう言われてみれば、最近、ナスにハマっています。揚げて良し。煮て良し。焼いても良し。漬けても良し。

――「ワリカツ!」のレシピは、毎回ご自身で考えるのですか。

 はい。フードコーディネーターさん、いないですから。うちのマネジャーさんやスタッフにも、料理をする人がいるし、東北や九州など出身地が違うんで、「これを使った郷土料理、なんかない?」って聞くこともあるんです。視聴者さんからメールをもらって「ブロッコリーの芯」が食えるのを知りました。薄くスライスして下茹でして食べる。あれで浅漬けみたいにしても美味しかった。炒めても美味しい。あと、茶碗蒸しに舞茸を入れると固まらないっていうのも教えてくれました。分離しちゃう。それから、商店街の八百屋さんや肉屋さんが教えてくれる料理。「こうすると美味しいよ」みたいなのが、当たりますよね。街がまた元気になったら行きたい。ロケ先あっての「ワリカツ!」なんだよね。

レシピ例③「豆腐南蛮」。揚げ鶏に甘酢とタルタルソースを合わせた宮崎の名物料理「チキン南蛮」を豆腐でアレンジ。香ばしく焼き色をつけた豆腐にシャキシャキタマネギたっぷりのタルタルが絶品!

――戸越銀座、武蔵小山、ハッピーロード大山……。街の人たちに愛されているのが画面から伝わってきます。ここ十数年の飯尾さんって、人気がもう不動のものになって、2021年~22年の「年末年始TV番組・番組本数ランキング」でも第3位を記録しています。自分自身の現在を、どう評価していますか。

 いや、全然、もう、本当に自分の仕事の方法なんて「ぶん投げ」ですから。あとはそちらで「編集お願いします!」。(自分は)素材だけ渡すアレですから。調理方法うまいじゃないですか、皆さん。

――飯尾さんのつくる笑いって、他人を傷つけないですよね。

 「傷つく笑い」って何だろうとか思ったりするけど……。投影して、自分のことも当てはまる、イヤだな、って思う方がいるのか……。そのへんが難しい。お笑いって残酷ですからね。でも、「すべらない話」も全部、自分が「恥かいた」「こんなにダメだったんですよ」っていう失敗談じゃないですか。

――コンプレックスの話も同様に。

 そうですそうです。だから、この職業が素晴らしいなって思うのは、コンプレックスが笑い話になること。笑い話にできると強いじゃないですか。「あの頃さあ~」なんて言って。最近言われるコンプラも、「仲良し同士がじゃれ合っているだけなのにな」とは思いますよね。だから僕たちは「交番の前でだって、できますよ」と。後ろめたくないんです。それを真似して、いじめに発展するとか、実際に流れでやっているような人には、「じゃあ、交番の前や、(いじる)対象になっている人の両親・兄弟の前でできるのか?」って。「できないだろう」って。僕たちのは、その方のご家族の前でだってできる。「ショー」ですから。

――むしろ私はお笑いに励まされてきました。つらい時、飯尾さんたちの笑い、それこそ関根さんの「カンコンキンシアター」も観てきました。笑いを生み、前向きにさせてくれる人を尊敬します。

 そうですか……そう思ってくれると嬉しいですけどね。俺も、結構、バカバカしい笑いとか、バラエティを観て、ゲラゲラ笑って、寝ていたタイプ。そうやってストレス発散になってくれたら嬉しいですよね。

――そして美味しいものを食べて元気を出さないと。今後の「ワリカツ!」で挑戦したいことは。

 早くコロナが終わって、全国にロケに行きたいですね。前は尾道・鞆の浦(広島)、伊勢・志摩・鳥羽(三重)など、いろいろ行かせてもらったんです。夏の北海道なんか行ったら、美味しいでしょうね! トウモロコシから何から海鮮も。でもその時に「300円」を引いちゃうと、とんでもないことになるでしょうけど。300円でウニは食えないでしょうね。「ウニふりかけ」止まり。

――これからも、美味しくて独創的な料理の発信が楽しみです。

 「料理はちょっと」という人も、「これでいいのか!」って思える感じになっていますので。料理するきっかけとか楽しさ、料理好きの人には、もっと料理が好きになっていただければと思っております。あのう、本は、場所を取らないサイズになっていますんで。薄さもちょうど良い感じで。

――本はオールカラーでしたっけ?

 オールカラー……、あ、後半は単色です。オールカラーにすると3000円超えちゃいますんで。カラーで始まって急に白黒になったりしますけど、色の変化を楽しみに。一つよろしくお願いします。