【この記事で紹介する絵本】
- 目を凝らせば見えてくる 『夜をあるく』
- ふちのところがふさふさの……『わたしのマントはぼうしつき』
- 氷につつまれた季節の中で味わう家族のぬくもり 『こおりのむこうに』
- 出来たて、炊きたて、おいしそう! 『あ・さ・ご・は・ん!』
- それからそれから、どうなっちゃうの? 『あなのなかから…』
- 今日も一緒にゆっくりお散歩 『クロべぇ』
- たくましい妄想力でついに宇宙へ! 『アブナイこうえん』
- そのこぶしを動かしていたのは… 『ボクサー』
- 聞こえてくるのは生きるものの息づかい 『ほっきょくで うしをうつ』
- ふと出会ったのは魔法のような時間『ダーラナのひ』
目を凝らせば見えてくる 『夜をあるく』
「やくそく、おぼえてる?」ママに起こされ、ぼくたちは着がえ、玄関を出る。家族4人で訪れる夜の森。深く美しい、青い景色。照らされているのはほんの一部。その暗さはずっと続く。それでも目を凝らしていけば、何もかもがしっかり見えてくる。そこにあるのは、特別な体験。湖に映る月。草むらに寝っころがって見上げる星空。険しい山道。そして……。
【編集長のおすすめポイント】
その暗さ、静けさ、におい、明るさの変化。家族と一緒に体験しているうちに、不思議と自分まで感覚が研ぎ澄まされていくような気持ちになってきて。息遣いを意識し、目を凝らす。ぽきりと枯れ枝の折れる音に反応し、さわさわと揺れる木々の葉っぱの存在を感じる。それはもう特別な体験だと言えますよね。やがて訪れる日の出の時間、その光をいっぱいに浴びながら、きっとこの先もずっと思い出す景色になるのだろうと実感するのです。
ふちのところがふさふさの……『わたしのマントはぼうしつき』
「ふちのところがふさふさの、わたしのマントはぼうしつき」嬉しそうに着ているのは、真っ赤な色をした素敵なマント。頭まですっぽりかぶれば、耳までしっかりおおい、顔のまわりにはふさふさ。これで、雨がふっても雪がふっても大丈夫。おともだちと一緒にいる時も、もちろんマント。悲しい時や嬉しい時はぼうしをかぶって。秋が来たらぼうしをかぶって、冬はもちろんぼうしをかぶって。だけど夏は……?
【編集長のおすすめポイント】
みんながまっすぐこちらを向きながら繰り広げられる、くまの子とマントのお話。その独特な雰囲気に惹きつけられながらも不思議に思っていると、最後の「おやすみなさい」のページでハッとする。なるほど! だけど、その気持ちは一旦心にしまっておいて。親子でこの可愛い可愛い、小さな動物たちの「おともだち劇場」をじっくりと楽しみましょうね。
氷につつまれた季節の中で味わう家族のぬくもり 『こおりのむこうに』
雪にとじこめられたおうちの中で、あたたかく過ごしていた一家ですが、ある朝きょうだいの末っ子、ピントパットくんの様子がおかしいことに気づきます。病院に連れていくために、一家はあたたかい服を着て、リュックに食糧も詰めて、そりで出発! 湖をとおり、滝の向こう側へ。
【編集長のおすすめポイント】
シリーズ1作目では冬じたくのために町へおつかいにでるラビッタちゃんのお話。2作目ではお花に囲まれてピクニックをする春のお話。3作目ではすっかり夏になり、可愛い弟が生まれます。そして今作。氷に閉ざされた山の暮らしは厳しいばかりにも思えるのですが、シリーズを通して、肩を寄せあい自然とともにのびのびと暮らす家族の姿を見てきている読者にとっては、冬もまた魅力的な季節に思えるのです。家の中も、また病院やお店の様子も、そしてオーロラの輝く自然の景色も。どれも同じだけ愛情を注ぎ描かれる場面の数々。あたたかい布団の中でゆっくり味わってくださいね。
出来たて、炊きたて、おいしそう! 『あ・さ・ご・は・ん!』
「さあ、あさだ。おなかがすいた。あさごはん!!」お米をあらって、炊飯器でスイッチオン。その間におみそ汁。お湯を沸かして、材料切って、出汁も忘れずに、まとめてぐつぐつ。主役のしゃけにお塩をひとつまみ。フライパンでじゅーじゅーじゅー。お鍋ぐつぐつぐつ、炊飯器ごとごとごと。あちらこちらで美味しいにおいと美味しい音!大事なのは段取りとリズム。ぶつぶつ言いながら作っているうちに、心も体も元気になってきて、すっかり目が覚めた頃に食卓を囲んで「いただきます!」。「武田美穂のたべもの絵本」シリーズ第4弾。
【編集長のおすすめポイント】
シリーズに共通しているのは、どの絵本にもお料理しか登場しないこと。ハンバーグにオムライス、そして今回は「あさごはん」。だけどどうでしょう、この躍動感。目が離せなくなる楽しい展開。レシピ本とは明らかに違います。読めば元気が出てきます。そしてお腹が空いてきます。「それこそ一番大事なこと!」作者の声が聞こえてくるようですね。朝ごはんが待ち遠しい、そんな毎日を過ごす子どもたちが増えますように。
それからそれから、どうなっちゃうの? 『あなのなかから…』
1つの穴から、2つの穴から、「ばあ!」「ばあ! ばあ!」。めくってびっくり。動物たちが、はりきって飛び出してきます。両手を広げ、目も口も大きく開き、眉毛もめいっぱいあげて。さいとうしのぶさん流「いないいないばあ」絵本は、やっぱり個性的で楽しいのです。さて、今度は……?
【編集長のおすすめポイント】
あなから出てきて、ばあ! こんなにシンプルで、こんなに笑ってしまうシチュエーションがあるでしょうか。だけど、よく見てみてくださいよ。驚かせるほうの顔の表情ときたら。しっかりと眉毛をあげ、目は思いっきり見開いて、口は大きく。だけどできる限り無表情で。やっぱりここが重要なポイントなのでしょうか。この一生懸命な「ばあ!」こそが、絵本を読む子どもたちを喜ばせてくれているのでしょう。そうとわかれば、さあさあ練習してくださいね。まずは目をぱっちりと……。
今日も一緒にゆっくりお散歩 『クロべぇ』
クロべぇとぼくはよく散歩をする。歩くのがだいぶ遅くなったし、足をあげててもおしっこが出ない時がある。からだは大きいのにとても臆病だし、うんちをしている時の顔はマヌケだ。一緒にいると困ることもいっぱいあるけど、どこか憎めない。「ぼく」の視点から、いつものクロべぇの散歩の様子をユーモラスに描き出す。
【編集長のおすすめポイント】
大きな顔に小さな目。表紙には、こちらをじっと見つめるクロべぇ。ちょっと怖そう。いったい何を言おうとしているのでしょう。「さんぽ、いくか」と誘っているのでしょうか。それとも「この絵本、おもしろいよ」と主張しているのでしょうか。絵本で何度も一緒にお散歩しているうちに、なんだか私たち読者まで、クロべぇが何を言おうとしているのかわかるような気がしてくるのです。
たくましい妄想力でついに宇宙へ! 『アブナイこうえん』
「さあ、しゅっぱつだ!」地球に迫りくる巨大隕石バナスを破壊するために、ロケットに乗りこみ宇宙ステーションへ向かったのは、「ほうかごスペシャル探検隊」。また新たなモウソウの世界へと出発したのです。5人はイテンウ・ブリッジをわたって、宇宙基地イダリー・ベースに移動。さらに、ぎんがスクーターに乗って宇宙の真ん中へ! 目の前に現れたのは……。
【編集長のおすすめポイント】
「アブナイ絵本」シリーズ第3弾。まずはこの圧倒的な熱量で描かれた(モウソウ版)宇宙の世界を存分に味わって! 美しくも不気味、ちょっと怖いけど魅力的。山本孝さんの個性的な絵は、シリーズを重ねるごとに密度は濃くなり、その分バカバカしさもますます際立って。そこに大げさなナレーションをかぶせていけば、気分はすっかり探検隊の一員。しっかりと「アブナイ」世界の中に入りこんでいけるはずです。
そのこぶしを動かしていたのは… 『ボクサー』
ボクサーは、打って、打って、打った。子どもの頃から、なんでも打った。父の形見のグローブをはめ、草原を、雲を、木を。昼も、夜も、何年も。すべてを打ちくずし、粉々にし、それでも彼は打ちつづけた。言葉と詩の国であるイランで生まれたこの絵本。力強い言葉や伸びやかで自由な色彩に込められているのは、どんな感情なのでしょう。
【編集長のおすすめポイント】
自分にはなんでもできる。どんなことでも乗りこえられる。この「こぶし」さえあれば。そうやって自分を突き動かすものを信じ、疑いもなくまっすぐに進みつづける。そういう姿は美しく、周りの心を惹きつけていく。けれど、その先には何があるのだろう。自分はなんのために動いているのか。一度でも立ちどまり考えはじめた時、もう元の自分には戻れない。そこからが、本当の自分の道のスタート地点なのだろう。そんな自分だけの勝手な想いを重ねながら、この美しい絵本を堪能するのです。
聞こえてくるのは生きるものの息づかい 『ほっきょくで うしをうつ』
鉄砲に弾をこめ、わたしは一歩一歩近づいていく。こんなに大きな動物を撃ってもいいのか。でも、ここまできたら撃つしかない。一番近くのうしに狙いをつけ、引き金をひく。そのうしは……。氷しかない、極限の地で旅する男が出会ったのは、ジャコウウシの群れ。探検家・角幡唯介の実体験をもとに描かれたこの物語を、画家である阿部海太が大胆に描き出す。
【編集長のおすすめポイント】
生きることと、死ぬこと。子どもたちがどうしようもなく惹きつけられていくそのテーマ。普通に生活しているだけではなかなか気がつくことの出来ない、緊迫した境界線。それでも絵本を読めば、うしの親子の存在を感じることができ、旅人の心の迷いを体験することができるのだ。そこにあるのは「答え」ではないけれど。これからも考え続けていく手助けとなってくれるであろうこの絵本、余計な説明はいらないのかもしれません。
ふと出会ったのは魔法のような時間『ダーラナのひ』
長い道を、海を見ながらひとり歩いてきたダーラナ。押し寄せる波がささやく「ダーラナ ダーラナ なみうちぎわに きてごらん」という声に誘われて砂浜におりていきます。すると沈みそうな夕陽がささやくのです。「ダーラナ ダーラナ すこしやすんでごらん」と……。あたりが真っ暗闇になる寸前、ダーラナが集めた小枝に火がつきます。濃紺の闇の中、さまざまに表情を変えながら、赤・黄・白・ピンク色に燃え上がる焚き火は美しく、いつまでも眺めていたくなります。
【編集長のおすすめポイント】
夕日のひとかけが起こしてくれた、小さな火。それをなんとか大切に守りながら、息を吹き込み、大きな焚き火へと育てていく。この一連の作業は、どうしてこんなにも魅力的なのでしょう。私たちの心をあっという間に惹きつけてしまい、気がつけば絵本の中で燃え上がる火を無心で眺めているのです。そして、自分の中にも生まれてくる何かを思い出そうとする気持ち。いつか、どこかの……。そんな魔法のような時間こそ、大切にしていきたいと思うのです。
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