【この記事で紹介する絵本】
- 秋を全身で味わい、楽しみ尽くす!『おちば』
- じっと見ているうちに、いつのまにか!?『おはよう』
- 今日も顔をほぐして、はじめましょう。『かおたいそう』
- みんなにこにこ、とってもいい気分! 『ねぇだっこ』
- いつもと同じ、でも特別な夜。『ねむれないよるのこと』
- 深くて濃い闇の中で『クジラがしんだら』
- 心の声に耳をすませば…『しずかなおきゃくさま』
- 「好き」って、そういうこと! 『チョウになりたい』
- 大真面目なんだけれど……?『こまった こまった』
- 生き続けていく物語『のうじょうの いえ』
- 少し切なくておかしな日常『ぼくらにできないことはない』
秋を全身で味わい、楽しみ尽くす!『おちば』
森の道は葉っぱだらけ。歩くたびに足元でしゃくしゃく音がする。頭の上からはざあざあ風の音。「あっ! おちば!」木々が鮮やかに色づく森の中で、ぼくがつかまえたのは赤い葉っぱ。落ち葉をもっと集めて集めて、みんなかかえて「それっ!」。今度はさっきよりもっとたくさん……。
【編集長のおすすめポイント】
ひらひらと舞い落ちてくる葉っぱ、黄金の絨毯のように地面を覆いつくす葉っぱ、陽の光を浴びて透き通る葉っぱ、突風に吹きあがる葉っぱ、体を包み込んでくれる葉っぱ、持ち帰りたくなる宝物のような葉っぱ……。この絵本の中に登場する葉っぱ達はいったいどれだけの表情を見せてくれているのでしょう。そして葉っぱの上を歩き、つかまえ、空に飛ばし、たくさん集め、ジャンプするのは男の子。存分に味わい、楽しみ尽くしているのです。この先迎える落ち葉の季節の中で、きっと何度も思い出すことでしょう。絵本が教えてくれることは、思っているよりもずっと広く大きく、深いのでしょうね。
じっと見ているうちに、いつのまにか!?『おはよう』
ベッドの上。お父さんは読みかけの絵本を手に持ったまま寝てしまった。ぼくは頭を横向きにして、お父さんの顔をじっくり見る。大きな鼻からいびきが聞こえ、ぼくは上を見る。天井にはへんなしみ。それからぼくは下を向き……。
【編集長のおすすめポイント】
眠れない夜。じっとどこかを見つめているうちに、それが大きく見えたり、不思議な形に思えてきたり。はたまた知っているはずの景色が全く別の景色となってあらわれたり。そんな経験があるような、ないような。ぼんやりとした記憶の中の情景が、この絵本にはハッキリと描かれているのです。ああ、なんて愉快で楽しいのでしょう。朝はもうすぐやってくる。このままずっとここにいるのもいいな……。そんな気持ちにさせてくれる、可愛くてかっこいい一冊です。
今日も顔をほぐして、はじめましょう。『かおたいそう』
さあ、赤ちゃんから100歳の方まで。
どうぞみなさん、ご一緒に!
今日も顔をほぐして、はじめましょう。
大きく口をあけて……「ま」。
顔の真ん中にすべてをぎゅっと寄せて……「む」。
いーーっと横に口を開いて……「に」。
さらに「ぷうう」「のーん」、もうおしまいだの顔で、「でべぇー」。それって、いったいどんな顔!?
【編集長のおすすめポイント】
喜怒哀楽とは関係のない、顔の表情だけで絵本が成り立ってしまうなんてちょっと驚きです。口を大きくあけたり、すぼめたり、歯を見せてみたり、全体をのばしてみたり。舌を思いっきり出したと思えば、すっと力を抜いてみたり。真似してみれば、もっとびっくり! これは大変な運動量です。見ているだけでも笑ってしまうけれど、誰かと読めばきっと何かが起こる。あの人のあんな顔、この人のそんな顔。陽気な空気で気持ちを開放してくれる絵本ですね。
みんなにこにこ、とってもいい気分! 『ねぇだっこ』
だっこをせがむのは、りんご。
優しくだっこをしてあげるのは、バナナです。
体の上にりんごを乗せて、ゆーらゆら。
「だっこ だっこ ねぇ」
今度は、じゃがいもが登場。
大きなキャベツの上はあったかーいね。
【編集長のおすすめポイント】
「だっこ だっこ」と言いながら、実際の写真では、大きな果物や野菜の上に小さな果物や野菜がちょこんと乗っているだけ。それでも伝わってくる感覚はとっても多彩。フィットする場所、相性の良さ、伝わる体温、一番可愛く見える位置、笑いたくなる組み合わせ……。「だっこ」って、こんなにも万能なんだと改めて思わずにはいられません。我が子にも色んな「だっこ」、試してあげてくださいね。
いつもと同じ、でも特別な夜。『ねむれないよるのこと』
「おやすみなさい」
ふとんに入ってはみたものの、なんだかうまく寝られない。ぜんぜん眠れない。しかたがないから起きあがって、おもちゃの電車で遊んでいたら……ぼくは電車の中に。寝静まった夜の中、がたたん、ごととん、ひみつの旅が始まった!
【編集長のおすすめポイント】
もう寝なくちゃ。思えば思うほど、もぞもぞ、もぞもぞ。全然寝られない! そんな様子をしっかりと描いたコマワリの場面。ここを読むだけで、主人公の男の子の愛らしさや日常の様子が伝わってきますよね。だからこそ彼が思い描く夢の国は、キラキラしているけど親近感もたっぷり。好きなものや馴染みのあるものであふれています。さあ。目が覚めればいつもと同じ、でも特別な一日が待っていますよ!
深くて濃い闇の中で『クジラがしんだら』
ここはふかーく暗い、海の中。まっくら闇がどこまでも続き、なかなかエサにありつくこともできない深海。そんな場所でも生きものたちが日々を過ごしています。と、その時。頭上におちてきたのは、何十年もの長い一生を終えた、大きなマッコウクジラ! 命を終えたクジラの体は、長ければ100年にもわたりさまざまな生き物の命を支え続ける大ご馳走となるのです。
【編集長のおすすめポイント】
この物語で描かれているのは、マッコウクジラの体という夢のご馳走を目の前にした深海の生きものたちの大饗宴。見たことのないその出来事に驚き夢中になりながらも、ふと気づくのです。全てを食べ終わったあと、次にクジラが降ってくるのは……? 出会うことのできる確率は? そこに流れる時間とは? 味わったことのないほど、途方もない気持ちになってきます。けれど彼らの子孫は残っているのです。深くて濃い闇の中に思いを寄せてみる。そんな体験ができるのも、この絵本を読んだからこそですよね。
心の声に耳をすませば…『しずかなおきゃくさま』
今日はお留守番。かあさんぎつねに誰がきてもドアを開けてはダメだと言われたけれど。ドアをノックして「しずけさ」がやってきた。「しずけさ」は、部屋いっぱいになるほど大きくて、二つの目があって、透明。最初は落ち着かない気持ちのこぎつねだったけれど、一緒におやつを食べ、音楽なしで踊り、楽しく過ごします。こぎつねは思うのです。「しずけさが きてくれて よかったな」
【編集長のおすすめポイント】
ひとりでいると、つい何か音を鳴らしてしまう。静かすぎる空間にいると、落ち着かない。気がつけば、自分は「しずけさ」の存在を忘れてしまっていたのかもしれない。いつか出会ったことがあったかもしれないのに……。自分の体の音に、心の声に、耳を澄ましてみれば何かが見つかるはず。この絵本を読んだ子どもたちも、いつかまた「しずけさ」のことを思い出す時がくるのかもしれません。
「好き」って、そういうこと! 『チョウになりたい』
紙や鉛筆、絵の具にはさみに洋服に、出来上がったばかりの大きな羽。部屋中を散らかしながら夢中になって作ったものを身に着け、男の子は外へ出かける。広い場所に立って、風をよみ、羽を広げ……飛ぶよ! くるり、くるくるり、すいーすすすいー、ひらひらひら。チョウになっている自分が好き!
【編集長のおすすめポイント】
体の何倍もの大きさの羽をつけ、色どり鮮やかな服を身につけ、頭にはなんだか変わった葉っぱをつけている。そんな姿をした子が突然目の前にあらわれたら、びっくりしてしまうかもしれない。何をしているんだろうと不思議に思うかもしれない。けれど、目を輝かせながら何度でも挑戦し、嬉しそうに飛びまわり、風と一体となっている姿を目にしたら、応援せずにはいられなくなってしまうのです。「好き」の力を目の当たりにした時、「好き」に巻きこまれていく人だって、同じくらい素敵だと思いますよね。
大真面目なんだけれど……?『こまった こまった』
「こまった こまった」いったい誰が困っているのでしょう? さかさまに寝るコウモリ、手が多すぎるタコとタコ、片付けが苦手なカンガルー。いったい何に困っているのでしょう?おねしょが顔にかかる? 握手がこんがらがる? ポケットに入れたはずのカギが見つからない!?
【編集長のおすすめポイント】
私たちの日常の中にも「こまった こまった」状況というのは、しょっちゅうあることでしょう。はたから見れば些細なことだったとしても、本人にとっては重大な出来事。ここに登場する動物たちの「こまった」だって、相当なものです。でも、なぜか彼らは軽やかに明るく見えます。それどころか、私たちを笑わせてくれるのです。それはきっと、困ったと言いながら、どこかでその状況を楽しんでいるからかもしれません。ああ、なんだか憧れちゃうなあ。
生き続けていく物語『のうじょうの いえ』
丘の向こうの道の果て、きらめく川のほとりに建っている一軒の家。そこでは12人の子どもたちが生まれ、育った。子どもたちは、壁に模様をつけ、居間でオルガンを弾き、いたずらをして怒られたり、自分の部屋で宇宙や星々の本に夢中になったり。思い思いに過ごします。やがて、子どもたちは皆大人になり、この家から巣立っていき……。
【編集長のおすすめポイント】
12人の子どもたちがにぎやかに暮らす、ある家の物語。密度高く描かれた豊かで幸せな風景に夢中になっていると、中盤からがらっと様子が変わっていきます。廃屋のようになった家の中には、木が生え、枯れ葉が重なり、壊れた家具や食器、洋服、新聞などが散乱している。地下にはクマさえ冬眠している。巻末におさめられているのは実際の写真と「この家のために何かをしようと、かたく心に決めた」という作者の言葉。絵本を開けば、またかつての物語がよみがえってくる。全てを読み終わったあとに、さらなる感動がやってくるのです。
少し切なくておかしな日常『ぼくらにできないことはない』
宇宙船でたどり着いたぼくらがやってきたのは、ここ。乗れたのは、ぼくら二人とおかあさんと大好きなキングだけ。知らない街での新しい暮らし。お隣さんは変わっているし、学校でもわからないことが多いし、色々言われることもあるけど。「ぼくらはかんぺき。ぼくらにできないことなんてない」
【編集長のおすすめポイント】
たどり着いた場所で、とりあえずお隣さんに話しかけ、犬のキングと遊び、学校では思いっきり好きな絵を描く。同時に新しい宇宙船が着陸できる準備にだって余念がない。孤独や不安をかかえながらも、自分たちを信じ行動にうつしていく。喪失、離婚、移民、難民……それぞれの可能性を想像しながらも、彼らに見えているこのちょっとおかしな景色に、希望の力を感じずにはいられません。
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