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「ドンキにはなぜペンギンがいるのか」書評 イメージを更新する意外な実態

評者: トミヤマユキコ / 朝⽇新聞掲載:2022年04月09日
ドンキにはなぜペンギンがいるのか (集英社新書) 著者:谷頭 和希 出版社:集英社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784087212044
発売⽇: 2022/02/17
サイズ: 18cm/231p

「ドンキにはなぜペンギンがいるのか」 [著]谷頭和希

 驚安の殿堂、ドン・キホーテ。1号店を出したのが1989年だというから、私達(わたしたち)とはけっこう長い付き合いである。本書はそんな「ドンキ」が日本社会の中でどのように増殖し、消費者との関係を形づくってきたかについて書かれている。
 著者は「はたして、チェーンストアは、ほんとうに世界を均質に、そしてつまらないものにしているのだろうか」と問う。チェーンストアは地域の商店を破滅に追い込みその個性を失わせる、というよくある論調を疑っているのだ。
 都市を均質化するかに見えるチェーンストアだが、ドンキに関しては、どうも様子が違っている。というのも、ドンキはとにかく目立ちたい&儲(もう)けたい、という正直な欲求によって増え続けてきたため、かえって強引なことができなかった、というか、しなかった。
 その結果、居抜き物件を利活用した内装、地域性を如実に反映した商品ラインアップはもとより、お得意のジャングル風陳列をしないことだってあるというではないか(知らなかった)。クセの強さが目立つけれど、実は周囲の環境に馴染(なじ)む形で店舗を運営している。小回りの利く器用なお店と言えなくもない。こうしたドンキの実態が、実地調査はもちろん、レヴィ=ストロースなどを参照しつつ、丁寧に、ときにユーモラスに説かれていく。ドンキとレヴィ=ストロースって一体どんな組み合わせだよ、と思った人にこそ読んで欲しい。「言われてみれば確かに」となるから。ヴィレッジヴァンガードとの比較論もオススメである。
 都会には都会の、地方には地方のドンキがあり、そこにはそれぞれ固有のショッピング体験がある。ドンキに対する雑なイメージを更新せよ。そんなメッセージが読むほどに馴染んでくる。チェーンストアを否定するだけの時代はもう終わり。これからは、チェーンストアの存在を受け入れた先に何を見いだすかが大事なのだと思い知らされた。
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たにがしら・かずき 1997年生まれ。ライター。ウェブメディアにチェーンストアなどについて執筆。