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「晴れるまで踊ろう」SKY-HIさんインタビュー 自分のままで、夢に向かって一段ずつ

SKY-HIさん、写真:大野隼男(えるマネージメント)

人間を考えるきっかけになった漫画

――活動休止中のAAA時代、ラッパーSKY-HIとしての活動、自身で立ち上げた会社「BMSG」の社長とプロデュース業など、これまでの濃厚な足跡をまとめたエッセイ『晴れるまで踊ろう』。上梓することになったきっかけからお聞かせください。

 以前から書籍のお話をいただくことはあったのですが、メッセージや表現という意味では楽曲やライブで音楽家として伝えているので、近年は書籍の必要性を感じていませんでした。でも、起業した会社「BMSG」があと半年で丸2年になることもあり、過去を振り返るよりも会社を成長させる未来を考えることが増えてきたので、どうやって今この状況にいるのかをしっかりと言語化して、頭の整理をしたいと思ったんです。さらに今後、出発点に立ち返りたい時に確認できるものがあればと、自分のためにこのタイミングで書籍を発売することになりました。

――本の中で、物事の例えとして「少年ジャンプ」や『ROOKIES』『SLAM DUNK』『幽☆遊☆白書』『鬼滅の刃』などのタイトルが出てくるのが印象的でした。

 人生で大切なことはだいたい漫画から教わってきましたから(笑)。幼少期に読んだ『ブラック・ジャック』などの手塚治虫作品、そしてジャンプ連載当時から読んでいた『バクマン。』(大場つぐみ原作、小畑健作画)と、『BLUE GIANT』(石塚真一)は好きで、影響を受けていますね。

 とくに『ブラック・ジャック』は、ブラック・ジャック自体が社会的にはヒールとなっていますが、彼の中での正義もありますし、山ほど出てくる悪人についても、人には人の事情があることがわかる。絶対的なものがないのがいいんですよね。勧善懲悪の漫画や本が多いなか、『ブラック・ジャック』を読むと、人間はそこまで簡単なものではないなと感じられました。いろいろな人間がさまざまな方向に歪んでいたり、まっすぐだったり、人間というものを考えるきっかけになったのかもしれません。

日韓の男性グループの違いは

――本書のはじめに「AAAとしてNHKホールから放送された『紅白歌合戦』に出場して、そして同じ夜、日付が変わって新年になった頃には、すぐ近くにある渋谷のクラブでSKY-HIとしてラップしていた」という、SKY-HIさんを象徴するお話があります。メジャーとアンダーグラウンド、両極端に思えるグループとラッパーとしてのふたつの活動は、ご自身にとっては「自然なこと」だと綴っていますね。

 人をカテゴライズしたりラベリングしたりする行為は、愚かなことだと思っています。自分ではやりたいように好きなことをやっているだけなんですが、そこで得られた知見は貴重なもので、アーティストとしての自分はもちろん、プロデューサーや起業家としても得られるものがとても大きくて。こういった活動をするアーティストがいなかったこともあり、「アイドルなのにラップをやるなんて」と色眼鏡で見られていた時期の苦々しい思いは今もトラウマとして残っています。トラウマはそう簡単に消せないものですが、そのまま執念に変換できるから、今は自分の会社を推進させていくガソリンにもなっていて、そういう意味では感謝していますね。

――そうした経験があって、2020年に「アーティストが自分らしく才能を開花させられる」レーベル「BMSG」を立ち上げたんですね。本書の中でも「日本の芸能システムは、いったい何人のG-DRAGONになれたかもしれない才能を殺してきたんだろう」と、韓国と日本の男性グループの違いを指摘しています。

 歌もダンスも曲も良いものを作る。それだけでいいのに、ボーイズグループに限らずアイドルに対して、それ以外の側面が多すぎる気がしていて。とくに日本は顔面偏差値がどうとか、音楽と関係のないルックスや従来のイジる、イジられるみたいなバラエティ性などの要素を求める側面があまりにも多く、しかもその状態が当たり前になっています。音楽と関係ない側面を重要視しすぎた結果、アイドルには実力がない、という変な思い込みがある。

 実際に、それを許している環境も良くないですし、くくられるものが何であれ、歌とダンスを生業にする場合、常人の想像を超えることが当たり前のことですよね。料理人が作る料理は当然、僕が作る料理より、とてもおいしい。サッカー選手は、常人よりはるかにサッカーがうまい。そのための鍛錬はもともと必要なわけですが、才能がある人が努力した結果がそうなる。当然、歌手だけ別ということはないと思っています。

――起業する際に相談をした方から、「最低でも読んでおいたほうがいいよ」と3冊勧められたそうですが、どのような本だったのでしょうか。

 『起業の科学』(日経BP)などの本ですね。誰でも起業できるなかで、成功するためではなく、失敗しないためにどうすればいいかが書いてある起業の教科書です。「経営できる、起業できるな」と思えたから、読んで良かった。3冊ともそういった起業に関する本です。

大事なのは人間としての自分

――SKY-HIさんは2021年に、自費で1億円を出資して企画を持ちかけ、日本から世界で活躍するボーイズグループを作るためのオーディション「THE FIRST」を行って、7人組男性グループ「BE:FIRST」を誕生させました。確固たる自分軸がないと新たな才能を掬い上げることができないと思うのですが、どのような視点で人を見ているのですか。

 そもそも僕にはいくつかの特性があって、オタク気質なので物事を掘り下げて見ることと、それを言語化することが好き。歌手やダンサーたちのパフォーマンスを見て、向上するためにどうすればいいかという自分なりに感じた気持ちを明確に語ることができます。そして自分自身、本当の意味においてマネージメントしてもらった経験がなくて。レッスンはこうすべきだ、こういう意味だからこうしようということを人生においてされたことがなかったんですね。それで次第に自分で考えるようになりました。

 20代後半でやっと、優秀なトレーナーやダンサーのみんなに能動的に巡り会えて、成長の仕方という点においても自覚的にやってこられた。その経験が今、誰かを育成および発掘することに、とても生きていると思います。逆に幼少期から才能にも環境にも恵まれて、レッスンの場もすべて与えてもらうような育成をされていたらどうだったか。できて当たり前、レッスンされて当たり前となっているから、その環境を作ることの大切さや必要性がわからなかったはずです。だからこそ、能動的に環境を開拓してきたことで、どういう人が後天的に伸びていくか、想像力を作る力になりました。

BE:FIRST / Shining One -Music Video-

――「BMSG」は「Be My Self Group」の頭文字で、アーティストやアイドルが「自分のまま」いられる空間を、という志を掲げています。一人ひとりがSNSでメディアを持っている時代には、自分をどう見せるかというセルフプロデュースも必要かと思いますが、それについてはどのように考えていますか。

 僕はどちらかというと、セルフプロデュースをまずしない、ということが大事だと思っています。アーティストであれ、アイドルであれ、まず大事なのは、人間としての自分。私生活の自分と表舞台に立つ自分とは、極力、差異なく過ごすほうが絶対にいいと思っています。それがベースにある上で、どういった側面を強調するべきか、それがインパクトにつながるか、インパクトにつながるならプロモーションにもなるだろうという流れが、本来のセルフプロデュースということですね。

身近な目標を積み重ねた先に夢がある

――夢を持っている人がやりたいことをかなえていくコツはなんでしょうか。

 その夢の大小は問わず、かなえるためにできる最初の一歩は、すごく小さいものです。例えば、美しく痩せようと思ったら、運動や健康法を実践するといった、痩せるまでのいろいろなプロセスがありますよね。でも、最初の一歩って、実は「晩ごはんをちょっと控えよう」とか、すごく小さなことからだと思うんです。

 だから、大きな夢であればあるほど、具体的に今何をすべきか因数分解していって、目標に到達するまでの設定を最初に細かく作っておけばできるんじゃないでしょうか。とても高い階段は一気に登れなくていいんです。目の前の小さい階段なら登っていけると思うので、一段を高くしすぎず、小さな階段を少しずつ登っていくこと。一段登れたことで自己肯定できることにもつながりますし、将来の自分のために「今日はデザートを食べるのやめました」というだけでも、めっちゃ自分を褒めていい。小さいことの積み重ねが大事だと思います。

 最近「夢」という単語がとても好きなんです。ふんわりとしたことを夢と呼ぶのではなく、身近な目標を積み重ねた先にあるものが夢。今回、目標や夢を見失いがちな方や、時間がない方、インターネット上で人とのコミュニケーションは取っていても自分とのコミュニケーションが取れてない方が、自分と対話できる手伝いになる本ができたと思います。自分の意志を読み取って、自分をちゃんと褒めてあげることが自己肯定感の後押しに繋がりますし、人生を良い方向に導くのではないでしょうか。

――本書の中でも、「自分がコミュニティーになじめない、と感じたり、この集団の中で浮いているな、と感じたり」しても、自分自身を疑うのではなく「そのコミュニティーが健全かを確かめる」必要性をうったえていますね。

 例えば1日に10人と新しく出会っても、生涯で出会う人の数は、世界の総人口より少ないですし、世界中の人に会わないわけですよね。僕はいろいろな国に行ったり、外国のアーティストとコラボレーションしたりする度に「世界は広いな」と思ってきました。それでも、この間(韓国の8人組ボーイズグループの)「Stray Kids」からのプロデューサーユニット「3RACHA(スリーラチャ)」と一緒にデジタルシングル「JUST BREATHE feat. 3RACHA of Stray Kids」を作らせてもらった時は、「こんなところにこんな人たちがいたんだ」と思い知らされました(配信後、同曲はiTuneのソングランキングなど計47のランキングで1位、世界38ヶ国・地域でTOP10入り)。どれだけ経験を積んでも、出会いには終わりがないから。

SKY-HI / JUST BREATHE feat. 3RACHA of Stray Kids (Prod. UTA) -Music Video-

 世界中に人がいるぶん、コミュニティーも社会も違いますし、自分のクラスと隣のクラスで全然空気が違うこともありますし、同じ市内でも隣の学校では常識が違うことや、同じ給与や職種でも別の会社では全然方針も変わることがあります。もしも自分の居場所が辛いと感じたら、そこに居つづけることのメリットとデメリットを紙に書いていくと、一目瞭然ではないでしょうか。自分の状況を客観的に見ることは難しいから、すごく意識して紙に書き出すと、どうすればいいのか整理できると思います。

――SKY-HIさん自身の今後の夢はなんでしょうか。

 音楽は素晴らしいということを、世の中の多くの方々に感じていただくことが、僕らの存在意義のうちのひとつ。音楽を届けるアーティストとして、自分のままでいながらも、ひとりでも多くの方に「音楽って良いね」と思ってもらえる楽曲やアーティストを作っていきたいと思います。